君は僕のもの〜ヤンデレ短編集〜
もう少し
手首を縛る縄と格闘すること約一時間。あの男が帰って来るまでに逃げなくてはならない。

「くっ……！んんっ……！」

壁際まで移動し、壁に手首を擦り付けて縄を切るために不自由な手を動かす。早く。早く解かないと。

私は数ヶ月前、とある旅館の従業員として働いていた。その老舗旅館は旅行者に人気の旅館で、多くの常連さんで賑わっていた。仕事は大変だったけど、やりがいがあって楽しかった。

そんなある日、仕事が終わった私は家に帰る途中だった。その時に無理やり車に押し込められて、それからはずっとこの家で監禁されていた。

私を監禁した翠（みどり）さんは旅館の常連客だ。熱を孕んだ目をしながら、彼は私を縛り上げて言った。

『ずっと音羽（おとは）さんが好きだったんだ。だからここにいてね』

翠さんはほとんど私のそばにいて、今までは脱出のチャンスなんてなかった。買い物は代行サービスを利用していたし、仕事は在宅でできるものみたい。
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