君は僕のもの〜ヤンデレ短編集〜
耳元で囁かれた声はゾッとするほど冷たくて、でも熱い執着を感じた。胸板を必死に押すものの、びくともしない。

「初めまして、蘭さん。私は菊(きく)と言います。あなたに一目惚れをしました。あなたには絶対に私のお嫁さんになっていただきます」

「な、何を勝手なことを……!」

顔を上げると菊さんの整った顔が近くにあった。菊さんは片方の手で私の頰を撫でる。その目はとても幸せそうだった。

「逃しませんよ。あなたには大人になっていただきます。わがままを言ってはいけません。私が一言言えばお父様が職を失うことくらいわかるでしょう?」

その言葉にハッとする。確かにこの人の言う通りだ。でも、私の頭の中に彼の笑顔が浮かぶ。この人のものになるということは、彼と別れないといけないということだ。それを嫌だと心が叫んでいる。そして私は、大人になんてなれない!

「嫌でーーーんうッ!」

拒否の言葉を掻き消すかのように、菊さんが私の唇を奪う。この人は無理やり私を大人にさせる気なんだ。

頰を悲しみの涙が伝った。









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