君は僕のもの〜ヤンデレ短編集〜
夏に二人の時を止めて
高校最後の夏休み、私はおじいちゃんとおばあちゃんの住む海辺の町にいた。海辺の町と言っても有名な観光地じゃない。穏やかな時間が流れる田舎だ。イオンモールはおろかおしゃれなカフェやお店もない。でも私はこの町が好きで、毎年遊びに来ている。特に今年は去年とは違った夏休みを過ごせた。

「おじいちゃん、ちょっと散歩してくるね」

荷造りを終えた私は、リビングでテレビを見ているおじいちゃんにそう声をかけた。おじいちゃんはテレビ画面から私に目を向け、「あまり遅くならないようにね」と言う。それに返事をして私はサンダルを履いた。

おじいちゃんの家は丘の上にあって、その丘を降りていくと海がある。夕暮れが迫る浜辺は、普段は海水浴をする人や釣り人がいるけれど、誰もいない。私はそこに向かった。

浜辺に近付くと波の音がはっきりとこの耳に届く。その音が愛おしい。もう明日からは聞けなくなるんだと思うと寂しくなった。

夕焼けがキラキラと輝く波を見つめていると、「遅くなりました」と声をかけられた。振り返るとサマーシャツを着こなした男の子がいる。今年、この町で出会った一つ年下の前(ぜん)くんだ。
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