わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜①
10月17日
ネット・スターの当惑〜瓦木亜矢の場合〜
ナミと一緒に、寿太郎のイメチェンを後押しするため、洋服を買いに行った日から二日後、『深津寿太郎・改造計画』に関わっているメンバーにも現在の状況を確認してもらおうと、この日は、放課後に映文研のメンバー、わたしとナミとリコ、そして、入室の許可を得た中等部の柚寿ちゃんと友だちの伊藤さんにも集まってもらい、視聴覚室で、彼のお披露目会を実行することになった。
わたしたちが視聴覚室で待つ間、寿太郎は、こちらが指定したジャケット、インナー、ボトムスに着替えるため、隣りにある視聴覚準備室で、映文研副部長の高須くんと一緒に、今日のお披露目の準備をしている。
彼らが準備室に入って十分ほど経ったころ、副部長がドアから顔を出し、映文研の下級生たちに声をかけた。
「よし! 準備できたぞ! カーテンを閉めて、照明を落としてくれないか?」
三年生の支持に従った一年生と二年生の部員たちは、テキパキと行動し、窓側と廊下側のカーテンを閉め、大きなホワイトボードのある視聴覚室前方の照明をオレンジ色の電球色に切り替えた。さらに、室内の他の蛍光灯をすべてオフにして、講師席として、一段高くなっている教室前方に注目が集まるように演出する。
準備が完了すると副部長氏は、準備室で着替えを終えたらしい映文研の部長に声をかける。
「せっかくだから、音楽も使って盛り上げないとな! 寿太郎、おまえの好きな曲を用意しておいたぞ」
その言葉と同時に、タブレットPCから、洋楽のナンバーが流れ出した。
この曲、なんだっけ? シックスペンス・ノン・ザ・リッチャーの『キス・ミー』?
母親が、自宅で良く聞いている気がする。
うちの親の世代が好んで聞いているということは、かなり以前に発表された曲なんだろうけど、寿太郎が母と同じ音楽の趣味を持っているのは、意外だった。
イントロが流れるとともに、準備室からゆっくりと歩き出した寿太郎の姿を目にした瞬間、室内の全員が、息を飲んだのがわかった。
テーラードジャケットに、グレーのシンプルなカットソー、ジャケットと合わせた黒スキニーのスタイルは、BGMや薄いオレンジ色で照らされる蛍光灯の相乗効果もあって、さっきまで同じ教室で授業を受けていたクラスメートとは信じられないほどだった。
土曜日に、この衣装を選んだ自分やナミでさえそうなのだから、この日、初めて彼の変身ぶりを目の当たりにした、リコや柚寿ちゃん、彼女の友人の伊藤さんは、言葉を発することのないまま、ステージのようになった教室の前方を見つめている。
一方の男子メンバーの映文研の下級生たちは、
「マジっすか!?」
「ホントに、深津センパイ?」
と、妙にテンションを上げつつ、部長氏の変貌を楽しんでいるようである。
一同の視線を集める中、ランウェイを歩くモデルのようにホワイトボードの前を行き来する寿太郎を見ながら、彼の友人から、
「思った以上の変身ぶりだな……これは、深津寿太郎アップデートの第一歩、成功したんじゃないか?」
そんな声がかかったんだけど――――――。
曲が最も盛り上がるパートに差し掛かった瞬間、
「のわっ!?」
という間の抜けた声とともに、モデル気取りのクラスメートは、足元が薄暗い照明のため、目測を誤ったのか、ステージに見立てた一段高い段差から、よろけるようにフローリングの床に着地した。
室内に集った一同からは、
「あちゃ〜……」
と、ため息が漏れる。
せっかくのBGMと照明による演出の特殊効果も台無しだ。
「はぁ……わざわざ、香菜ちゃんにも来てもらったのに……お兄は、第一歩を見事に踏み外したね」
あきれるようにつぶやく、柚寿ちゃんの言葉とともに、
「深津くん、大丈夫かな……?」
と、心配気な視線を送るリコの姿が印象的だった。
ネット・スターの当惑〜瓦木亜矢の場合〜
ナミと一緒に、寿太郎のイメチェンを後押しするため、洋服を買いに行った日から二日後、『深津寿太郎・改造計画』に関わっているメンバーにも現在の状況を確認してもらおうと、この日は、放課後に映文研のメンバー、わたしとナミとリコ、そして、入室の許可を得た中等部の柚寿ちゃんと友だちの伊藤さんにも集まってもらい、視聴覚室で、彼のお披露目会を実行することになった。
わたしたちが視聴覚室で待つ間、寿太郎は、こちらが指定したジャケット、インナー、ボトムスに着替えるため、隣りにある視聴覚準備室で、映文研副部長の高須くんと一緒に、今日のお披露目の準備をしている。
彼らが準備室に入って十分ほど経ったころ、副部長がドアから顔を出し、映文研の下級生たちに声をかけた。
「よし! 準備できたぞ! カーテンを閉めて、照明を落としてくれないか?」
三年生の支持に従った一年生と二年生の部員たちは、テキパキと行動し、窓側と廊下側のカーテンを閉め、大きなホワイトボードのある視聴覚室前方の照明をオレンジ色の電球色に切り替えた。さらに、室内の他の蛍光灯をすべてオフにして、講師席として、一段高くなっている教室前方に注目が集まるように演出する。
準備が完了すると副部長氏は、準備室で着替えを終えたらしい映文研の部長に声をかける。
「せっかくだから、音楽も使って盛り上げないとな! 寿太郎、おまえの好きな曲を用意しておいたぞ」
その言葉と同時に、タブレットPCから、洋楽のナンバーが流れ出した。
この曲、なんだっけ? シックスペンス・ノン・ザ・リッチャーの『キス・ミー』?
母親が、自宅で良く聞いている気がする。
うちの親の世代が好んで聞いているということは、かなり以前に発表された曲なんだろうけど、寿太郎が母と同じ音楽の趣味を持っているのは、意外だった。
イントロが流れるとともに、準備室からゆっくりと歩き出した寿太郎の姿を目にした瞬間、室内の全員が、息を飲んだのがわかった。
テーラードジャケットに、グレーのシンプルなカットソー、ジャケットと合わせた黒スキニーのスタイルは、BGMや薄いオレンジ色で照らされる蛍光灯の相乗効果もあって、さっきまで同じ教室で授業を受けていたクラスメートとは信じられないほどだった。
土曜日に、この衣装を選んだ自分やナミでさえそうなのだから、この日、初めて彼の変身ぶりを目の当たりにした、リコや柚寿ちゃん、彼女の友人の伊藤さんは、言葉を発することのないまま、ステージのようになった教室の前方を見つめている。
一方の男子メンバーの映文研の下級生たちは、
「マジっすか!?」
「ホントに、深津センパイ?」
と、妙にテンションを上げつつ、部長氏の変貌を楽しんでいるようである。
一同の視線を集める中、ランウェイを歩くモデルのようにホワイトボードの前を行き来する寿太郎を見ながら、彼の友人から、
「思った以上の変身ぶりだな……これは、深津寿太郎アップデートの第一歩、成功したんじゃないか?」
そんな声がかかったんだけど――――――。
曲が最も盛り上がるパートに差し掛かった瞬間、
「のわっ!?」
という間の抜けた声とともに、モデル気取りのクラスメートは、足元が薄暗い照明のため、目測を誤ったのか、ステージに見立てた一段高い段差から、よろけるようにフローリングの床に着地した。
室内に集った一同からは、
「あちゃ〜……」
と、ため息が漏れる。
せっかくのBGMと照明による演出の特殊効果も台無しだ。
「はぁ……わざわざ、香菜ちゃんにも来てもらったのに……お兄は、第一歩を見事に踏み外したね」
あきれるようにつぶやく、柚寿ちゃんの言葉とともに、
「深津くん、大丈夫かな……?」
と、心配気な視線を送るリコの姿が印象的だった。