わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜

第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜②

 視聴覚室に集った一同からの視線を一身に集めながらも、ちょっと残念な結果に終わったランウェイのモデル・ウォーキングを見届けたあと、わたしは、みんなの前で、『深津寿太郎・改造(イメチェン)計画』の最後のフェーズに関する説明をすることにした。

 第4フェーズ:ボイトレおよび宣伝活動期間 について

 三週間ほど前、映文研メンバーと友人のふたりに披露した資料の九ページ目を表示させ、計画の締めとなる最終フェーズの解説を始める。

「さっきのお披露目会では、最後にちょっと残念な()()が付いたけど、みんなに見てもらったように、深津寿太郎(ふかつじゅたろう)くんのイメチェン計画は、おおむね計画どおりに進んでいます。そして、この計画の締めくくりとして、最後は、ボイストレーニングを行ってもらいます。また、イメチェンに必要な要素を完璧に身につけたあと、『学院アワード』の投票に向けて、オンラインや対面での宣伝活動を行っていきます」

 わたしが、最後になる予定のプレゼンテーションを開始すると、向かって右手側に座っている映文研のメンバーから質問が飛んできた。

「いまのままでも、寿太郎のアップデートは、十分に成功しつつあると思うんだが……ボイトレまでして、()()()を手に入れる必要があるのか? そのトレーニング期間で、他のことにチカラを入れるべきなんじゃないかと感じるんだが……」

 そう問いかけてきたのは、映文研の副部長だった。
 当然、こういう質問が出てくるのは予測できていたので、すぐに回答を提示する。

「たしかに、深津くんの()()()はすでに十分に進化しているかも知れない。でも、もうひとつ、声 (イコール) イケボという武器があれば、さらに、女子からの印象が良くなるのは間違いないからね! ちょうどイイから、ここに集まってくれた女子に、聞いてみよう! 男子の声は、重要な要素だと思う人!」

 わたしの問いかけに、予想どおり、室内の女子メンバー四人の手が一斉にあがる。 
 
「みんなは、どんな声が好き?」

 ふたたび、彼女たちに問いかけると、(せき)を切ったように、女子メンバーの主張が展開される。

「ウチは、斎◯工と中◯倫也かな?」

「私は、高◯一生さんかな? アニメの『耳をすませば』の声もイイよね?」

「私は、麒◯の川◯さん! やっぱ、お笑いも声が重要だと思うし、ネタの幅が広がるもん!」

「皆さんに通じるか、わかりませんが……VTuberの剣◯刀也さんの声が好きです」

 ナミはともかく、あまり自己主張をすることのないリコや、大人しそうな伊藤さんまで、かなりの熱量を持って語ってくれたのは意外だったけど、映文研の男子メンバーには、十分にわたしの意図が伝わったようだ。

 そして、

 「なるほど……」

と、うなずく男性陣のようすを確認しながら、次の話題に移ろうとしたんだけど――――――。
 彼らは、プレゼンターであるわたしの意志を無視し、勝手に自身の趣味を語り始めた。
 
「やっぱ、声は大事ですよ! 僕も、一度は佐◯綾音の声で、『セ〜ンパイ』って呼ばれたいですもん!」

「いや、年下キャラなら、篠◯侑さんの『お兄ちゃん』一択だろ!?」

(ブイ)がありなら、笹◯咲とリ◯・ヘルエスタもありじゃないでしょうか?」

「みなさん、冷静になりましょう……小◯唯さんをママと慕えば、すべての問題は解決するのです」

 そういった方面に関心が薄いのか、三年生のふたりは黙して語らず、映文研の下級生メンバーは、勝手気ままに持論を苦笑しながら眺めている。
 
(いや、あなたたちの意見は聞いてないんだけど……)

(でも……寿太郎は、どんな声が好きなんだろう……? やっぱり、リコみたいに繊細でお淑やかな声がすきなんだろうな……)

 などと考えつつ、プレゼンの進行を再開する。

「こうして、色々な意見が出るくらいだし……これで、()という要素の重要性はわかってもらえたんじゃない?」

 こちらの想定以上に持論が補強されたことに安心しながら、微笑を浮かべて映文研の同級生に語りかけると、やや渋い表情だった高須副部長は、「わかったよ……」と、つぶやくように同意したあと、

「しかし、この企画……寿太郎のイメチェン計画(プラン)が始まったときから、ヘップバーンのあの映画みたいだと感じていたんだが――――――」

そう前置きをしてから、

「声や話し方の指導まで入って来るとなると、いよいよ、『マイ・フェア・レディ』そのものの展開になってきたな! 寿太郎、念願の()()()を獲得して、『スペインの雨は主に平野に降る』を上手く発音できたあかつきには、ぜひヘップバーンのように、『|I Could Have Danced All Night《踊り明かそう》』を披露してくれよ?」

と、冗談めかした口調で、友人の肩を叩く。

「なんで、オレが歌わなきゃいけね〜んだよ……あと、あの映画、歌声の部分は、ヘップバーンの声じゃなくて、吹き替えだぞ?」

 先日、わたしにも話していた映画オタクらしい豆知識(?)で反論した寿太郎は、続いて、こちらに向かって質問を投げかけてきた。

「最後に言ってた、『学院アワード』の投票に向けてのオンラインや対面での宣伝活動ってのは、ナニをすれば良いんだ?」

「ネット上での宣伝活動は、わたしやナミに任せて! 今回の企画を情報解禁したことだし、《ミンスタ》や《トゥイッター》で、寿太郎を推しまくるから! それと、対面での宣伝活動には、映文研のみんなや柚寿ちゃんにも協力してほしいんだ……」

 わたしの返答に、今度は、下級生たちが、反応する。

「なんですか、ボクたちに協力してほしいことって?」

「それはね……」

 彼らの質問に答えると、映文研のメンバーや中等部の子たちは、一斉に顔を見合わせるのだった。
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