わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜⑤
10月28日
ネット・スターの当惑〜瓦木亜矢の場合〜
約一週間の特訓の成果もあり、腹式呼吸・鼻腔共鳴・ミックスボイスのスキルを習得した寿太郎は、柚寿ちゃんとともに、イケボをさらに磨き上げ、効果的に演出するための修行に取り組んでいるらしい。
そして、明日、その成果をわたしたちに見せてくれるという。
それは、前の週の月曜日、寿太郎の私服のお披露目が終わったあと、わたしから、映文研メンバーや柚寿ちゃんに協力をお願いしたこととも関係していた。
今日は、わたしの提案した対面での宣伝活動について、最終確認をするため、視聴覚室にいつものメンバーが集っている。
「じゃあ、明日の午後二時に、香子園浜の海浜公園に、撮影用の機材を持って集合ってことで良いんだな?」
映文研の部長にして、今回の企画の最重要人物が、確認のために、問いかけてきた。
「そうね! あと、深津くんは、キッチリとネタも準備して来てね」
笑顔で寿太郎に声をかけると、代わりに彼の妹が答えてくれた。
「亜矢ちゃん、それは、わたしが仕込んでおいたから、バッチリだよ!」
そんな、わたしたちの会話を聞いていたのか、映文研の二年生メンバーである安井くんが、しみじみと語る。
「それにしても、ボクたちが、あのリア充たちが集まる会合に参加することになるとは思いませんでしたね〜」
その言葉に、彼と同じ学年の浜脇くんも同調した。
「そうそう! 大学生もいるし……ホントに自分たちが行って大丈夫なのかな? 考えたら、なんか、緊張してきた……」
不安そうな言葉を口にする映文研の下級生たちを元気づけようとしたのだろうか、ナミは、彼らの間に割って入って、ふたりの肩に腕を回しながら、
「いまから、そんなにキョドってて、どうすんの? 別に、とって食べられるわけじゃないし! 心配しなくても大丈夫だよ!」
と言って、最後に彼らの背中をパシンと平手で軽く叩く。
「「うっす! 気合、入りました!!」」
文化系クラブであるにも関わらず、上級生の女子からの一喝に対して、安井くんと浜脇くんのふたりは、体育会系クラブの部員のような口ぶりで応答した。
ときどき、遠慮がなさすぎて、馴れなれしさを感じさせるナミだけど、誰に対しても、わけ隔てなく、親しい雰囲気で話せる彼女の性格は、場を和ませ、部員たちを前向きにさせる効果があったようだ。
映文研の部長や下級生の言葉から推測してもらえたかも知れないけど、この週末は、(わたしの提案で)ここにいるメンバー全員で、高等部や大学生たちが集まる場に出かけることになっている。
『野球の聖地』として全国的に知られている野球場から1kmほど南にある香子園浜の海浜公園では、毎年、三ヶ月祭祭の開催一週間前に、ステージ発表のリハーサルを兼ねた『打ち入り』と称して、高等部の生徒と大学の学生が合同で集まり、学祭の成功に向けて、実行委員会のメンバーの親睦を深め、一体感を高めるための会合が開かれている。
「『打ち入り』なんて、昔の業界用語を使ってるところに、うちの学校の校風が出てるなぁ……」
以前にこの話しをしたときに、寿太郎は、苦笑いをしながら、そんなふうに話していたけど……。
この場では、浜辺に簡単な舞台が作られ、学祭でステージに立つ生徒や学生が本番前のリハーサルを兼ねた実行委員会へのアピールを行うことが恒例となっていて、ここで三ヶ月祭実行委員会の目にとまれば、残りの期間に口コミで評判が広まり、当日のステージでも司会役が期待をあおるMCを披露してくれるので、三ヶ月祭本番での注目度が、ケタ違いにハネ上がるのだ。
さらに、今回は、他の生徒たちの口コミなどに頼るだけでなく、わたしとナミがSNSでの発信力を活かして、寿太郎たちが行うパフォーマンスの映像を拡散していく、という二段構えの作戦を取る予定だ。
映文研のメンバーには、情報拡散のための映像素材の撮影をお願いしたんだけど、その流れで、意外にも、寿太郎の妹の柚寿ちゃんが、
「亜矢ちゃん、その舞台に私も立ってイイかな? ステージで、お兄とやってみたいことがあるんだ!」
と、立候補を表明してきた。
もともと、寿太郎には、この舞台に立ってもらうために、イケボをマスターしたあと、歌や朗読などの声を使った、何らかのパフォーマンスをしてもらおうと考えていたんだけど、柚寿ちゃんに何か良いアイデアがあるなら……ということで、彼女の案に賭けてみることにした。
ちょっと抜けていて、頼りにならないところのあるお兄さん(最近は、そういうところも憎めないと感じるようにはなったけど)と違って、中等部の生徒とは思えないほどシッカリしている彼女が積極的にアピールしてきたからには、
(なにか、面白いことをしてくれるんじゃないか――――――?)
と、楽しみに思う気持ちもある。
海浜公園でのパーティタイムで、イメチェンに成功した寿太郎を学祭実行委員会のメンバーの前でお披露目できることと、彼と柚寿ちゃんが行うというパフォーマンスへの期待が高まり、この日は、なかなか寝付けなかったんだけど――――――。
次の日、わたしは、彼のイメチェン計画に夢中になっていたせいで、自分の身に降りかかることについて、注意が足りていなかったことを思い知らされることになった。
ネット・スターの当惑〜瓦木亜矢の場合〜
約一週間の特訓の成果もあり、腹式呼吸・鼻腔共鳴・ミックスボイスのスキルを習得した寿太郎は、柚寿ちゃんとともに、イケボをさらに磨き上げ、効果的に演出するための修行に取り組んでいるらしい。
そして、明日、その成果をわたしたちに見せてくれるという。
それは、前の週の月曜日、寿太郎の私服のお披露目が終わったあと、わたしから、映文研メンバーや柚寿ちゃんに協力をお願いしたこととも関係していた。
今日は、わたしの提案した対面での宣伝活動について、最終確認をするため、視聴覚室にいつものメンバーが集っている。
「じゃあ、明日の午後二時に、香子園浜の海浜公園に、撮影用の機材を持って集合ってことで良いんだな?」
映文研の部長にして、今回の企画の最重要人物が、確認のために、問いかけてきた。
「そうね! あと、深津くんは、キッチリとネタも準備して来てね」
笑顔で寿太郎に声をかけると、代わりに彼の妹が答えてくれた。
「亜矢ちゃん、それは、わたしが仕込んでおいたから、バッチリだよ!」
そんな、わたしたちの会話を聞いていたのか、映文研の二年生メンバーである安井くんが、しみじみと語る。
「それにしても、ボクたちが、あのリア充たちが集まる会合に参加することになるとは思いませんでしたね〜」
その言葉に、彼と同じ学年の浜脇くんも同調した。
「そうそう! 大学生もいるし……ホントに自分たちが行って大丈夫なのかな? 考えたら、なんか、緊張してきた……」
不安そうな言葉を口にする映文研の下級生たちを元気づけようとしたのだろうか、ナミは、彼らの間に割って入って、ふたりの肩に腕を回しながら、
「いまから、そんなにキョドってて、どうすんの? 別に、とって食べられるわけじゃないし! 心配しなくても大丈夫だよ!」
と言って、最後に彼らの背中をパシンと平手で軽く叩く。
「「うっす! 気合、入りました!!」」
文化系クラブであるにも関わらず、上級生の女子からの一喝に対して、安井くんと浜脇くんのふたりは、体育会系クラブの部員のような口ぶりで応答した。
ときどき、遠慮がなさすぎて、馴れなれしさを感じさせるナミだけど、誰に対しても、わけ隔てなく、親しい雰囲気で話せる彼女の性格は、場を和ませ、部員たちを前向きにさせる効果があったようだ。
映文研の部長や下級生の言葉から推測してもらえたかも知れないけど、この週末は、(わたしの提案で)ここにいるメンバー全員で、高等部や大学生たちが集まる場に出かけることになっている。
『野球の聖地』として全国的に知られている野球場から1kmほど南にある香子園浜の海浜公園では、毎年、三ヶ月祭祭の開催一週間前に、ステージ発表のリハーサルを兼ねた『打ち入り』と称して、高等部の生徒と大学の学生が合同で集まり、学祭の成功に向けて、実行委員会のメンバーの親睦を深め、一体感を高めるための会合が開かれている。
「『打ち入り』なんて、昔の業界用語を使ってるところに、うちの学校の校風が出てるなぁ……」
以前にこの話しをしたときに、寿太郎は、苦笑いをしながら、そんなふうに話していたけど……。
この場では、浜辺に簡単な舞台が作られ、学祭でステージに立つ生徒や学生が本番前のリハーサルを兼ねた実行委員会へのアピールを行うことが恒例となっていて、ここで三ヶ月祭実行委員会の目にとまれば、残りの期間に口コミで評判が広まり、当日のステージでも司会役が期待をあおるMCを披露してくれるので、三ヶ月祭本番での注目度が、ケタ違いにハネ上がるのだ。
さらに、今回は、他の生徒たちの口コミなどに頼るだけでなく、わたしとナミがSNSでの発信力を活かして、寿太郎たちが行うパフォーマンスの映像を拡散していく、という二段構えの作戦を取る予定だ。
映文研のメンバーには、情報拡散のための映像素材の撮影をお願いしたんだけど、その流れで、意外にも、寿太郎の妹の柚寿ちゃんが、
「亜矢ちゃん、その舞台に私も立ってイイかな? ステージで、お兄とやってみたいことがあるんだ!」
と、立候補を表明してきた。
もともと、寿太郎には、この舞台に立ってもらうために、イケボをマスターしたあと、歌や朗読などの声を使った、何らかのパフォーマンスをしてもらおうと考えていたんだけど、柚寿ちゃんに何か良いアイデアがあるなら……ということで、彼女の案に賭けてみることにした。
ちょっと抜けていて、頼りにならないところのあるお兄さん(最近は、そういうところも憎めないと感じるようにはなったけど)と違って、中等部の生徒とは思えないほどシッカリしている彼女が積極的にアピールしてきたからには、
(なにか、面白いことをしてくれるんじゃないか――――――?)
と、楽しみに思う気持ちもある。
海浜公園でのパーティタイムで、イメチェンに成功した寿太郎を学祭実行委員会のメンバーの前でお披露目できることと、彼と柚寿ちゃんが行うというパフォーマンスへの期待が高まり、この日は、なかなか寝付けなかったんだけど――――――。
次の日、わたしは、彼のイメチェン計画に夢中になっていたせいで、自分の身に降りかかることについて、注意が足りていなかったことを思い知らされることになった。