わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜⑦
不知火と柚寿のふたりが、あらかじめ注意喚起を行ってくれたことで、亜矢たちに、
「ステージの方で集まってるヤツらと話して来なくてイイのか?」
という無粋な質問をせずにすんだことは幸運だった、寿太郎はホッとする。
亜矢たちや柚寿の友人の香奈、映文研のメンバーと合流すると、その想いは、彼の中でより強くなった。
見知らぬ生徒や学生の多さに、明らかに緊張して表情が固い我が映文研の後輩たちと同じく、この場に知り合いが多いハズの亜矢たち三人の表情もまた、イベントの開始を待ちわび、期待しているという楽しげなようすとは、ほど遠いモノだ。
前日には、下級生の浜脇や安井の緊張をほぐすように声をかけてくれた奈美ですら、友人に気をつかっているのか、いつもに比べて、どことなく大人しい印象があった。
「遅くなって申し訳ない……撮影の準備は、進んでるか?」
すでに集まっているメンバーから感じられる重苦しい雰囲気に気づいていないようにふるまいながら、寿太郎が声をかけると、浜脇が、すぐに返事を返してきた。
「あっ、部長! お疲れ様です。これだけ知らない人が集まると、やっぱり、緊張しますね……」
「そうだな……浜脇たちは、オレと柚寿のために付き合ってくれてるんだもんな。必要な撮影が終わったら、サッサと帰らせてもらおうぜ」
下級生の言葉にそう返答すると、
「部長、ナニ言ってるんですか? 部長は、ここで、実行委員会の人たちにアピールしなきゃいけないんでしょ!? 出番が終わったら帰れるとか、あり得ないですから!」
彼は、それまで硬かった表情を崩して、ツッコミを入れてきた。
「ゲッ! マジかよ〜! しゃ〜ねぇ〜な〜……なら、ちょっと、今日のイベント主催者の三日月祭実行委員会にあいさつに行って来るわ!」
寿太郎が、不自然にならない程度に明るく振る舞いながら、返答して、ステージの近くに向かって歩きだすと
「ちょい待ち! ウチも一緒に行く!」
と、彼のクラスメートの名塩奈美が、駆け寄ってきた。
「深津、アンタひとりだと不安でしょ?」
そう言いながら、ニシシと笑う彼女に、「あぁ、ありがとうな……」と、ほほえみながら返事をする。
「イイって、イイって! アンタなりに気をつかってくれてるんでしょ? 亜矢が、あの場所に行くのは、ちょっと避けたいとこだしね……」
最後は、少し真顔になる彼女の表情を横目で眺めつつ、彼は感心しながらステージに向かう。
(たしか、亜矢は、『あまり空気を読めない』と言ってだけど……名塩は、友だち想いなんだな)
舞台に近づくと、隣を歩く奈美の方が率先して、実行委員会のメンバーに声をかけてくれた。
「どうも〜! 今日は、参加させてくれてありがとうね〜! 期待の新人と一緒にあいさつに来たよ〜」
「おっ、ナミちゃん! 彼が、今日の舞台に立ってくれるのか? へぇ〜、高等部にこんな男子がいたんだ? 結構、イケメンじゃん?」
いかにも、大学祭の実行委員会メンバーといった感じの軽い感じの大学生が、奈美の言葉に反応する。
「でしょ〜? まぁ、ウチと亜矢が、プロデュースしたんだから、当然っしょ!」
大学生の返答に、ケラケラと笑いながら答えるクラスメートの言葉に反応したのは、寿太郎の妹と悪友が警戒を怠るなと、注意していた女子生徒だった。
「あっ、あのとき、亜矢ちゃんと一緒にいたお友だちの方ですか? あの日から、亜矢ちゃん、《ミンスタ》や《トゥイッター》をあんまり更新しなくなっちゃたから心配で……あっ、でも、ハルカくんは、この通り、とっても元気ですから、こっちの心配はしなくてイイですよってお伝えください」
「あぁ、そう……こっちは、いま、このコのプロデュースで忙しいから、昔のことに構ってられないんだわ。ゴメンね〜、気が回らなくて」
このコという言葉を強調しながら、寿太郎を指さした奈美の言葉に反応し、鳴尾ハルカの隣に立つ少女は、彼らをジロジロと眺めながら、吐き捨てるように答える。
「ふ〜ん……今度は、このヒトがターゲットですか? 頼まれもしないのに、良くがんばりますね? そのアドバイス、ホントに本人が望んだモノなんですか?」
「さぁ、どうだろうね? でも、少なくとも、亜矢には厨二病みたいなファッションセンスの歌い手さんに、女子受けするコーデを薦めて、注目させた実績があるんだし、そこは、心配するところじゃなくね?」
下級生女子のあおりを余裕の表情で論破した奈美に対して、相手の少女は、
「それが、余計なお世話だって言ってるんですよ!」
と、キレ気味の言葉で応酬する。
「カ、カリンちゃん、落ち着いて……ボクは、気にしてないから。あ、お友達も亜矢ちゃんに伝えておいて。『あんなコトがあったけど、いつでも、気軽に声をかけてくれたら嬉しい』って……」
少女の隣でことの成り行きを見ていた鳴尾ハルカが、ようやく口を開く。
「もう〜、ハルカくん、優しすぎ〜」
などと、カリンちゃんと呼ばれた少女は、彼氏に言葉をかけているが、寿太郎は、自分の中に、怒りのような感情が込み上げてくるのに気づいた。
(いやいや、ことの発端は、おまえの言動にあるだろ? どの面さげて『気軽に声をかけてくれたら嬉しい』とか言ってるんだ!?)
いっぽう、隣に目を向けると、彼のクラスメートの女子は、
「ハルカ、アンタ救いようのないバカだわ……」
と、あきれ返るようにつぶやいていた。
「ステージの方で集まってるヤツらと話して来なくてイイのか?」
という無粋な質問をせずにすんだことは幸運だった、寿太郎はホッとする。
亜矢たちや柚寿の友人の香奈、映文研のメンバーと合流すると、その想いは、彼の中でより強くなった。
見知らぬ生徒や学生の多さに、明らかに緊張して表情が固い我が映文研の後輩たちと同じく、この場に知り合いが多いハズの亜矢たち三人の表情もまた、イベントの開始を待ちわび、期待しているという楽しげなようすとは、ほど遠いモノだ。
前日には、下級生の浜脇や安井の緊張をほぐすように声をかけてくれた奈美ですら、友人に気をつかっているのか、いつもに比べて、どことなく大人しい印象があった。
「遅くなって申し訳ない……撮影の準備は、進んでるか?」
すでに集まっているメンバーから感じられる重苦しい雰囲気に気づいていないようにふるまいながら、寿太郎が声をかけると、浜脇が、すぐに返事を返してきた。
「あっ、部長! お疲れ様です。これだけ知らない人が集まると、やっぱり、緊張しますね……」
「そうだな……浜脇たちは、オレと柚寿のために付き合ってくれてるんだもんな。必要な撮影が終わったら、サッサと帰らせてもらおうぜ」
下級生の言葉にそう返答すると、
「部長、ナニ言ってるんですか? 部長は、ここで、実行委員会の人たちにアピールしなきゃいけないんでしょ!? 出番が終わったら帰れるとか、あり得ないですから!」
彼は、それまで硬かった表情を崩して、ツッコミを入れてきた。
「ゲッ! マジかよ〜! しゃ〜ねぇ〜な〜……なら、ちょっと、今日のイベント主催者の三日月祭実行委員会にあいさつに行って来るわ!」
寿太郎が、不自然にならない程度に明るく振る舞いながら、返答して、ステージの近くに向かって歩きだすと
「ちょい待ち! ウチも一緒に行く!」
と、彼のクラスメートの名塩奈美が、駆け寄ってきた。
「深津、アンタひとりだと不安でしょ?」
そう言いながら、ニシシと笑う彼女に、「あぁ、ありがとうな……」と、ほほえみながら返事をする。
「イイって、イイって! アンタなりに気をつかってくれてるんでしょ? 亜矢が、あの場所に行くのは、ちょっと避けたいとこだしね……」
最後は、少し真顔になる彼女の表情を横目で眺めつつ、彼は感心しながらステージに向かう。
(たしか、亜矢は、『あまり空気を読めない』と言ってだけど……名塩は、友だち想いなんだな)
舞台に近づくと、隣を歩く奈美の方が率先して、実行委員会のメンバーに声をかけてくれた。
「どうも〜! 今日は、参加させてくれてありがとうね〜! 期待の新人と一緒にあいさつに来たよ〜」
「おっ、ナミちゃん! 彼が、今日の舞台に立ってくれるのか? へぇ〜、高等部にこんな男子がいたんだ? 結構、イケメンじゃん?」
いかにも、大学祭の実行委員会メンバーといった感じの軽い感じの大学生が、奈美の言葉に反応する。
「でしょ〜? まぁ、ウチと亜矢が、プロデュースしたんだから、当然っしょ!」
大学生の返答に、ケラケラと笑いながら答えるクラスメートの言葉に反応したのは、寿太郎の妹と悪友が警戒を怠るなと、注意していた女子生徒だった。
「あっ、あのとき、亜矢ちゃんと一緒にいたお友だちの方ですか? あの日から、亜矢ちゃん、《ミンスタ》や《トゥイッター》をあんまり更新しなくなっちゃたから心配で……あっ、でも、ハルカくんは、この通り、とっても元気ですから、こっちの心配はしなくてイイですよってお伝えください」
「あぁ、そう……こっちは、いま、このコのプロデュースで忙しいから、昔のことに構ってられないんだわ。ゴメンね〜、気が回らなくて」
このコという言葉を強調しながら、寿太郎を指さした奈美の言葉に反応し、鳴尾ハルカの隣に立つ少女は、彼らをジロジロと眺めながら、吐き捨てるように答える。
「ふ〜ん……今度は、このヒトがターゲットですか? 頼まれもしないのに、良くがんばりますね? そのアドバイス、ホントに本人が望んだモノなんですか?」
「さぁ、どうだろうね? でも、少なくとも、亜矢には厨二病みたいなファッションセンスの歌い手さんに、女子受けするコーデを薦めて、注目させた実績があるんだし、そこは、心配するところじゃなくね?」
下級生女子のあおりを余裕の表情で論破した奈美に対して、相手の少女は、
「それが、余計なお世話だって言ってるんですよ!」
と、キレ気味の言葉で応酬する。
「カ、カリンちゃん、落ち着いて……ボクは、気にしてないから。あ、お友達も亜矢ちゃんに伝えておいて。『あんなコトがあったけど、いつでも、気軽に声をかけてくれたら嬉しい』って……」
少女の隣でことの成り行きを見ていた鳴尾ハルカが、ようやく口を開く。
「もう〜、ハルカくん、優しすぎ〜」
などと、カリンちゃんと呼ばれた少女は、彼氏に言葉をかけているが、寿太郎は、自分の中に、怒りのような感情が込み上げてくるのに気づいた。
(いやいや、ことの発端は、おまえの言動にあるだろ? どの面さげて『気軽に声をかけてくれたら嬉しい』とか言ってるんだ!?)
いっぽう、隣に目を向けると、彼のクラスメートの女子は、
「ハルカ、アンタ救いようのないバカだわ……」
と、あきれ返るようにつぶやいていた。