わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜⑧
友人想いのクラスメートとともに、学祭実行委員会のメンバーへのあいさつを終えた寿太郎は、映文研のメンバーや亜矢たちが集まっている場所に戻る。
「奈美、大丈夫だった? ハルカくんたちと何か話し込んでたみたいだけど……」
心配そうな表情で、真っ先に問いかけてきたのは、樋ノ口莉子だった。
「あぁ〜、大丈夫、大丈夫! こっちの言いたいことは、言ってきたから! アヤ……アンタも、あのふたりのことは、気にしなくてイイから……自分の歌をキッチリ歌うことと、深津たちのステージを楽しむことに集中した方がイイよ」
気づかいのできる友だちの言葉に応じた奈美は、そのあと、亜矢の気持ちをフォローするように話しかけている。
鳴尾ハルカが伝えた言葉は、まるっきり無視されたカタチになったものの、相手の気持ちをまるで想像しない言動を考えるに、寿太郎も彼女の選択を支持したい気持ちだった。
最低限の営業活動(ただ、あいさつ回りをしただけだが)を終えたことで、彼らは、自分たちの出番に備えて、撮影やステージに立つための準備に入る。
寿太郎自身は、亜矢本人から詳細を聞いていなかったが、彼女は柚寿と寿太郎の兄妹がステージに立つ前に、同じ舞台で歌を披露するらしい。
「お兄、Saucy Catの『シンデレラガール』って知ってる? 亜矢ちゃん、今度の学祭でもステージで、この歌を歌うらしいよ! 《チックタック》で、亜矢ちゃん本人がショート動画をアゲてるから見ておきなよ?」
今日の舞台のための過酷な指導の合間に、柚寿からそんなことを聞いたので、彼は空いた時間に亜矢の歌唱動画を確認していた。
彼女の歌う曲は、もともと男性ボーカルの楽曲ではあるが、女性ボーカル用にアレンジしたキーで、見事に歌い上げている。なるほど、自分にボイストレーニングを手ほどきしてくれただけはある、と寿太郎は感じる。
(もしかすると、人気を博すあの《歌い手》の元カノということも関係あるのかも知れない)
と、そんなことが頭をよぎるが、なんとなく、それ以上そのことは、考えたくなかった。
ともかく、亜矢の歌唱力と舞台や撮影慣れしている性格から想像するに、彼女のことは心配しなくていい、と寿太郎は考えていたのだが――――――。
他のグループが披露するパフォーマンスには、さして興味を持つことができなかったので、亜矢や自分たちの出番が回ってくるまで、映文研のメンバーとカメラのチェックを行っていると、
「ねぇ、もうすぐ亜矢の出番なんだけど……ハルカくんたちも、ステージでなにかするのかな?」
と、舞台の方に目を向けていた莉子がつぶやいた。
その声に反応し、寿太郎たちがステージに視線を向けると、鳴尾ハルカとともに、カリンと呼ばれていた下級生の女子が、舞台に立とうとしていた。
「えっ……マジ!? ハルカが歌うとか、聞いてないんだけど……」
奈美が思わず声を漏らしたように、今日のステージの出演者や演目を事前に把握していた亜矢たちにも、鳴尾ハルカ(と、その他一名)が舞台に立つことは知らされていなかったようだ。
困惑する彼らをよそにステージ脇のスピーカーからは、妹の柚寿も良く聞いていたハルカの代表曲である『名もなき愛とは』のイントロが流れてきた。
舞台に立つふたりは、マイクを手にお互いを見つめ合いながら、歌い出しのタイミングを待っているようだ。
♪ あぁ 愛っていうのは 自分本位なんかじゃなくて
♪ きっと 自分より大切な存在を想うこと
♫ もしも キミとボクが あのドラマのように惹かれあうなら
♫ ドラマティックなキスをしようと告げられるのに
♪ そう言いたくてもうまくはいかない生きづらい世の中だけど
♪ もうボクのココロは決まっている
♪ 君のためなら生命を賭けられる! というのは嘘じゃない
♬ あぁ 愛っていうのは 自分本位なんかじゃなくて
♬ きっと 自分より大切な存在を想うこと
♪ そう 愛は奪い取るモノでも与え合うモノでもなくて
♫ 気がつくと そこにあるモノかも知れない
♪ いつの時代だって変わらない
♫ ただキミの笑顔を守りたい それだけなんだ
ハルカひとりで歌う楽曲をデュエット用にアレンジしたそのパフォーマンスには、ステージのそばだけでなく、寿太郎たちのように舞台を遠巻きから眺めていた他の出演者からも熱い視線が注がれていることがわかった。
そして、ワンコーラスぶんの歌詞を歌い終えると、演奏はフェードアウトし、カリン(と呼ばれていた少女)が、落ち着き払いたようすで語りだす。
「みなさん、こんにちは! 高等部二年の山口カリンです! みんなも知ってるハルカくんのあの曲を学祭のために、アレンジして歌わせてもらいました〜! 今日は、少しだけだったけど、本番では、フルコーラスで歌わせてもらうので、楽しみにしてください! あと、私も『学院アワード』にエントリーしているので、投票よろしくお願いしま〜す! あっ、瓦木センパイも、このあと、舞台に立つんですよね? センパイのうた、楽しみにしてま〜す」
彼女の言葉は、亜矢や寿太郎やを青ざめさせるのに、十分な破壊力を持っていた。
「奈美、大丈夫だった? ハルカくんたちと何か話し込んでたみたいだけど……」
心配そうな表情で、真っ先に問いかけてきたのは、樋ノ口莉子だった。
「あぁ〜、大丈夫、大丈夫! こっちの言いたいことは、言ってきたから! アヤ……アンタも、あのふたりのことは、気にしなくてイイから……自分の歌をキッチリ歌うことと、深津たちのステージを楽しむことに集中した方がイイよ」
気づかいのできる友だちの言葉に応じた奈美は、そのあと、亜矢の気持ちをフォローするように話しかけている。
鳴尾ハルカが伝えた言葉は、まるっきり無視されたカタチになったものの、相手の気持ちをまるで想像しない言動を考えるに、寿太郎も彼女の選択を支持したい気持ちだった。
最低限の営業活動(ただ、あいさつ回りをしただけだが)を終えたことで、彼らは、自分たちの出番に備えて、撮影やステージに立つための準備に入る。
寿太郎自身は、亜矢本人から詳細を聞いていなかったが、彼女は柚寿と寿太郎の兄妹がステージに立つ前に、同じ舞台で歌を披露するらしい。
「お兄、Saucy Catの『シンデレラガール』って知ってる? 亜矢ちゃん、今度の学祭でもステージで、この歌を歌うらしいよ! 《チックタック》で、亜矢ちゃん本人がショート動画をアゲてるから見ておきなよ?」
今日の舞台のための過酷な指導の合間に、柚寿からそんなことを聞いたので、彼は空いた時間に亜矢の歌唱動画を確認していた。
彼女の歌う曲は、もともと男性ボーカルの楽曲ではあるが、女性ボーカル用にアレンジしたキーで、見事に歌い上げている。なるほど、自分にボイストレーニングを手ほどきしてくれただけはある、と寿太郎は感じる。
(もしかすると、人気を博すあの《歌い手》の元カノということも関係あるのかも知れない)
と、そんなことが頭をよぎるが、なんとなく、それ以上そのことは、考えたくなかった。
ともかく、亜矢の歌唱力と舞台や撮影慣れしている性格から想像するに、彼女のことは心配しなくていい、と寿太郎は考えていたのだが――――――。
他のグループが披露するパフォーマンスには、さして興味を持つことができなかったので、亜矢や自分たちの出番が回ってくるまで、映文研のメンバーとカメラのチェックを行っていると、
「ねぇ、もうすぐ亜矢の出番なんだけど……ハルカくんたちも、ステージでなにかするのかな?」
と、舞台の方に目を向けていた莉子がつぶやいた。
その声に反応し、寿太郎たちがステージに視線を向けると、鳴尾ハルカとともに、カリンと呼ばれていた下級生の女子が、舞台に立とうとしていた。
「えっ……マジ!? ハルカが歌うとか、聞いてないんだけど……」
奈美が思わず声を漏らしたように、今日のステージの出演者や演目を事前に把握していた亜矢たちにも、鳴尾ハルカ(と、その他一名)が舞台に立つことは知らされていなかったようだ。
困惑する彼らをよそにステージ脇のスピーカーからは、妹の柚寿も良く聞いていたハルカの代表曲である『名もなき愛とは』のイントロが流れてきた。
舞台に立つふたりは、マイクを手にお互いを見つめ合いながら、歌い出しのタイミングを待っているようだ。
♪ あぁ 愛っていうのは 自分本位なんかじゃなくて
♪ きっと 自分より大切な存在を想うこと
♫ もしも キミとボクが あのドラマのように惹かれあうなら
♫ ドラマティックなキスをしようと告げられるのに
♪ そう言いたくてもうまくはいかない生きづらい世の中だけど
♪ もうボクのココロは決まっている
♪ 君のためなら生命を賭けられる! というのは嘘じゃない
♬ あぁ 愛っていうのは 自分本位なんかじゃなくて
♬ きっと 自分より大切な存在を想うこと
♪ そう 愛は奪い取るモノでも与え合うモノでもなくて
♫ 気がつくと そこにあるモノかも知れない
♪ いつの時代だって変わらない
♫ ただキミの笑顔を守りたい それだけなんだ
ハルカひとりで歌う楽曲をデュエット用にアレンジしたそのパフォーマンスには、ステージのそばだけでなく、寿太郎たちのように舞台を遠巻きから眺めていた他の出演者からも熱い視線が注がれていることがわかった。
そして、ワンコーラスぶんの歌詞を歌い終えると、演奏はフェードアウトし、カリン(と呼ばれていた少女)が、落ち着き払いたようすで語りだす。
「みなさん、こんにちは! 高等部二年の山口カリンです! みんなも知ってるハルカくんのあの曲を学祭のために、アレンジして歌わせてもらいました〜! 今日は、少しだけだったけど、本番では、フルコーラスで歌わせてもらうので、楽しみにしてください! あと、私も『学院アワード』にエントリーしているので、投票よろしくお願いしま〜す! あっ、瓦木センパイも、このあと、舞台に立つんですよね? センパイのうた、楽しみにしてま〜す」
彼女の言葉は、亜矢や寿太郎やを青ざめさせるのに、十分な破壊力を持っていた。