わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜⑩
三軍男子の戸惑〜深津寿太郎の場合〜
亜矢と寿太郎が一緒に舞台から降りてくると、不知火たち映文研のメンバーが、慌ただしく舞台に上がる準備を始めていた。
なぜ、本来なら撮影にチカラを注ぐはずの我らが映文研のメンバーがステージに登壇することになったかというと、ハルカとカリンのふたりが、飛び入りに近いカタチで舞台に立ったという事実を知った不知火が、
「アイツらが参加できるなら、俺たちにも舞台に立つ権利はあるよな」
と、持ち前の傍若無人さで実行委員会のメンバーに直談判し、ほぼゴリ押しで参加の権利を勝ち取ってきたからだ。
「あんなやり方で他人をあおる人間と、それを黙認して舞台に立つオトコの面子は、つぶしておかね〜とな! と言うわけで、おまえらも、一緒に行くぞ」
そう言って不敵に笑いながら、声をかけた映文研副部長に対して、
「え〜、ボクたちも出るんですか〜?」
「副部長、ひとりで行ってきてくださいよ〜」
と、上級生の無理強いに付き合わされることになった下級生たちは不満の声をあげたが、
「良く言ったよ、高須! 一発ブチかまして来てよ! なにするか知らんけど……(笑)」
「うん! 映文研のみんな、期待してるよ!」
と、名塩奈美と樋ノ口莉子が、声をかけると、
「まあ、先輩たちがそう言うなら……」
「仕方ないですね〜」
悲しい男の性なのか、彼らは、上級生の一軍メンバー女子に期待の目を向けられると、無下に断ることはできないようだった。
ここまでが、寿太郎が、亜矢と一緒に舞台に立つ前の出来事である。
不知火たちが、二台のデジタルビデオカメラを奈美と莉子に預けてステージに上がっていったので、寿太郎は奈美からカメラを受け取って、
「樋ノ口さんは、三脚にカメラを固定して、なるべくステージ全体が映るように撮影してくれる?」
と、指示をだして撮影の準備に入った。
「ねぇ、高須くんたちは、どんなことをするの?」
表情に明るさの戻った亜矢がたずねてくる。
「あんまりハードルをあげるべきじゃないけど……まぁ、期待して見ていてくれ。上手くいけば、あのふたりの歌も、オレの付け焼き刃な歌も吹っ飛ばすくらいのパフォーマンスを見せてくれるハズだ」
寿太郎が、そう答えると、二十年以上前、世界的にヒットしたというダンスナンバー、ジャミロクワイの『Canned Heat』のイントロが流れてきた。
歌唱が始まる前から、ステージのセンターに立つ不知火は、小刻みにリズムを取りながら、身体を揺らしている。
♪ このブギーがマジだってわかるだろ?
歌詞が始まると、不知火は、大きく手を広げて、本家のミュージック・ビデオでボーカル・JKが見せるパフォーマンスをリスペクトしたダンスを披露し始める。
♪ 俺は神への信仰で救われていた
♪ だけどそうしたら天国へ行くチャンスを逃してしまった
♪ 俺は未来を心配していた
♪ だけど今は全然ビビっちゃいない
ここまで、センターの不知火だけが大きな動きを見せていたが、次のセンテンスからは、上級生のバックでリズムを取っていた二年の浜脇と安井が、ダンスに加わる。
ダンサーが三人に増えたことで、それまで呆然と見ていただけのギャラリーから、期せずして、拍手が湧き始めた。
♪ こんなにお気楽でいられるわけなかった、無理、無理、無理
♪ 街の向こう側に出かけるまではね、そう、そう、そう
観客の盛り上がりにあわせるように、三年と二年のメンバーの後ろに控えていた一年生部員の広田と平木が加わり、五人体制になったダンサーたちは、キレのある動きを見せている。
♪ つまり、俺はあのブギーのリズムを聴いたってことさ
♪ そう! 踊らずにはいられなくなったんだ
いよいよ、楽曲が一番盛り上がる部分に差し掛かり、センターの不知火は、「カモン! カモン!」と、両手を広げてギャラリーをあおるような仕草を見せたあと――――――。
♪ Dance! 俺にはおどることしかできないんだ
ダンス! の歌声に合わせ、五人は大きく飛び跳ねて、見事な音ハメを決めた。
ビーチに集まっているギャラリーのボルテージは、最高潮だ。
彼らは、拍手や歓声だけでなく、指笛の音も混じりながら、映文研のダンスを盛上てくれている。
♪ 上手くいかないこともダンスでやり過ごしてやる
♪ 今夜、弾けそうな熱をかかとに感じているんだ、ベイビー
ワンコーラスを踊り終えると、舞台の中央で激しい動きを見せていた不知火は、DJブースに向けて、楽曲をフェードアウトさせるような仕草を見せたあと、BGMの音量が絞られるのを待ってから、マイクを片手に持ち、
「飛び入りで参加させてもらって申し訳ない。楽しんでもらえたなら本望だ。Thank You!」
と言ったあと、バックに控えるメンバーとともに、五人揃って深々とお辞儀をして、舞台から降りてきた。
彼らの予想外のパフォーマンスに、ビーチでは、拍手が鳴り止まない。
「学祭本番では、フル・バージョン期待してるぞ!」
観客の中からは、そんな声まで聞こえてきた。
「いや〜、マジでビビったわ……映文研って、どこで、こんなスキル身につけたん?」
オレが、ビデオカメラの録画停止ボタンを押したことを確認したのか、すぐそばでは、名塩奈美 が声をかけてきた。
そんな、クラスメートの質問に答える。
「あぁ、うちの部員全員で観た昔の映画のダンスシーンに影響を受けてな……ダンス動画を撮影するために、練習してたんだよ」
そのダンスシーンとは、映画ファンからは、《映画史上最悪の日本語タイトル》と揶揄された『バス男』という作品の一場面であり、自分たちがゲリラ撮影と勘違いされ、学内で目を付けられるキッカケにもなった、いわくつきのネタなのだが――――――。
「このシーンを超える動画を作ろうぜ!」
と、熱く燃え上がった映文研メンバーが考案した振り付けに、寿太郎自身はついていけず、
「部長は、撮影係としてがんばって下さい」
と、事実上の戦力外通告を受けたことは、どうか広言しないでほしい。
そんなことを考えながら、寿太郎は、柚寿とともに立つステージに立つ準備を始めた。
亜矢と寿太郎が一緒に舞台から降りてくると、不知火たち映文研のメンバーが、慌ただしく舞台に上がる準備を始めていた。
なぜ、本来なら撮影にチカラを注ぐはずの我らが映文研のメンバーがステージに登壇することになったかというと、ハルカとカリンのふたりが、飛び入りに近いカタチで舞台に立ったという事実を知った不知火が、
「アイツらが参加できるなら、俺たちにも舞台に立つ権利はあるよな」
と、持ち前の傍若無人さで実行委員会のメンバーに直談判し、ほぼゴリ押しで参加の権利を勝ち取ってきたからだ。
「あんなやり方で他人をあおる人間と、それを黙認して舞台に立つオトコの面子は、つぶしておかね〜とな! と言うわけで、おまえらも、一緒に行くぞ」
そう言って不敵に笑いながら、声をかけた映文研副部長に対して、
「え〜、ボクたちも出るんですか〜?」
「副部長、ひとりで行ってきてくださいよ〜」
と、上級生の無理強いに付き合わされることになった下級生たちは不満の声をあげたが、
「良く言ったよ、高須! 一発ブチかまして来てよ! なにするか知らんけど……(笑)」
「うん! 映文研のみんな、期待してるよ!」
と、名塩奈美と樋ノ口莉子が、声をかけると、
「まあ、先輩たちがそう言うなら……」
「仕方ないですね〜」
悲しい男の性なのか、彼らは、上級生の一軍メンバー女子に期待の目を向けられると、無下に断ることはできないようだった。
ここまでが、寿太郎が、亜矢と一緒に舞台に立つ前の出来事である。
不知火たちが、二台のデジタルビデオカメラを奈美と莉子に預けてステージに上がっていったので、寿太郎は奈美からカメラを受け取って、
「樋ノ口さんは、三脚にカメラを固定して、なるべくステージ全体が映るように撮影してくれる?」
と、指示をだして撮影の準備に入った。
「ねぇ、高須くんたちは、どんなことをするの?」
表情に明るさの戻った亜矢がたずねてくる。
「あんまりハードルをあげるべきじゃないけど……まぁ、期待して見ていてくれ。上手くいけば、あのふたりの歌も、オレの付け焼き刃な歌も吹っ飛ばすくらいのパフォーマンスを見せてくれるハズだ」
寿太郎が、そう答えると、二十年以上前、世界的にヒットしたというダンスナンバー、ジャミロクワイの『Canned Heat』のイントロが流れてきた。
歌唱が始まる前から、ステージのセンターに立つ不知火は、小刻みにリズムを取りながら、身体を揺らしている。
♪ このブギーがマジだってわかるだろ?
歌詞が始まると、不知火は、大きく手を広げて、本家のミュージック・ビデオでボーカル・JKが見せるパフォーマンスをリスペクトしたダンスを披露し始める。
♪ 俺は神への信仰で救われていた
♪ だけどそうしたら天国へ行くチャンスを逃してしまった
♪ 俺は未来を心配していた
♪ だけど今は全然ビビっちゃいない
ここまで、センターの不知火だけが大きな動きを見せていたが、次のセンテンスからは、上級生のバックでリズムを取っていた二年の浜脇と安井が、ダンスに加わる。
ダンサーが三人に増えたことで、それまで呆然と見ていただけのギャラリーから、期せずして、拍手が湧き始めた。
♪ こんなにお気楽でいられるわけなかった、無理、無理、無理
♪ 街の向こう側に出かけるまではね、そう、そう、そう
観客の盛り上がりにあわせるように、三年と二年のメンバーの後ろに控えていた一年生部員の広田と平木が加わり、五人体制になったダンサーたちは、キレのある動きを見せている。
♪ つまり、俺はあのブギーのリズムを聴いたってことさ
♪ そう! 踊らずにはいられなくなったんだ
いよいよ、楽曲が一番盛り上がる部分に差し掛かり、センターの不知火は、「カモン! カモン!」と、両手を広げてギャラリーをあおるような仕草を見せたあと――――――。
♪ Dance! 俺にはおどることしかできないんだ
ダンス! の歌声に合わせ、五人は大きく飛び跳ねて、見事な音ハメを決めた。
ビーチに集まっているギャラリーのボルテージは、最高潮だ。
彼らは、拍手や歓声だけでなく、指笛の音も混じりながら、映文研のダンスを盛上てくれている。
♪ 上手くいかないこともダンスでやり過ごしてやる
♪ 今夜、弾けそうな熱をかかとに感じているんだ、ベイビー
ワンコーラスを踊り終えると、舞台の中央で激しい動きを見せていた不知火は、DJブースに向けて、楽曲をフェードアウトさせるような仕草を見せたあと、BGMの音量が絞られるのを待ってから、マイクを片手に持ち、
「飛び入りで参加させてもらって申し訳ない。楽しんでもらえたなら本望だ。Thank You!」
と言ったあと、バックに控えるメンバーとともに、五人揃って深々とお辞儀をして、舞台から降りてきた。
彼らの予想外のパフォーマンスに、ビーチでは、拍手が鳴り止まない。
「学祭本番では、フル・バージョン期待してるぞ!」
観客の中からは、そんな声まで聞こえてきた。
「いや〜、マジでビビったわ……映文研って、どこで、こんなスキル身につけたん?」
オレが、ビデオカメラの録画停止ボタンを押したことを確認したのか、すぐそばでは、名塩奈美 が声をかけてきた。
そんな、クラスメートの質問に答える。
「あぁ、うちの部員全員で観た昔の映画のダンスシーンに影響を受けてな……ダンス動画を撮影するために、練習してたんだよ」
そのダンスシーンとは、映画ファンからは、《映画史上最悪の日本語タイトル》と揶揄された『バス男』という作品の一場面であり、自分たちがゲリラ撮影と勘違いされ、学内で目を付けられるキッカケにもなった、いわくつきのネタなのだが――――――。
「このシーンを超える動画を作ろうぜ!」
と、熱く燃え上がった映文研メンバーが考案した振り付けに、寿太郎自身はついていけず、
「部長は、撮影係としてがんばって下さい」
と、事実上の戦力外通告を受けたことは、どうか広言しないでほしい。
そんなことを考えながら、寿太郎は、柚寿とともに立つステージに立つ準備を始めた。