わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第3章〜ピグマリオン効果・教育心理学における心理的行動に関する考察〜⑬
10月31日
ネット・スターの当惑〜瓦木亜矢の場合〜
週末に香子園浜で開催されたリハーサルを兼ねた『打ち入りパーティ』でのステージ上の出来事は、SNSを通じて、打ち入りに参加していなかった生徒にもすぐに拡散されていった。
なかでも、
・ハルカ&カリンの『名もなき愛とは』
・わたし&寿太郎の『シンデレラガール』
・映文研メンバーの『Canned Heat』
・シトラスFの話芸『蛙化現象』
のパフォーマンスは、映像コンテンツが揃っていたこともあり、打ち入り参加者の口コミとの相乗効果で、大きな話題を集めていた。
「カリンちゃんって、二年の山口さんだよね? ハルカくんとイイ感じだったんじゃない?」
「私は、瓦木さんと深津くんのデュエットも良かったと思うな〜。ふたりとも息が合ってた感じじゃない?」
「いや、まさか、映文研のヤツらが、あんな芸を隠し持ってたなんて知らなかったわ……」
「そのあとの『蛙化現象』のネタも受けたけどな〜。中等部のあの女の子、深津の妹らしいぞ」
自分たちのクラスをはじめ、学内からは、さまざまな意見が聞こえてくるようになった。
ただ、彼ら、彼女らの関心事は、一点に集中しているようだ……。
「――――――で、『学院アワード』は、誰に投票する?」
三日月祭に向けた準備で、学園中が浮ついた雰囲気になる中、放課後、クラスの演物である執事喫茶の衣装合わせの最中に、ナミが声をかけて来た。
「いや〜、打ち入りイベント当日も、面白そうなことになるだろうな、と思ってたけど……学園中が、こんなにも盛り上がるとは思ってなかったわ〜。いまや、二年の山口カリンと、ウチらのクラスの高須と深津は、学校内の注目の的じゃん!」
学園祭前の高揚感からか、いつも以上にテンションの高い友人の言葉に対して、わたしは、衣装の確認を行いながら、投げやりに聞こえないように、注意しつつ、
「ん〜、確かに、そうだね〜」
と、答えを返す。
「おいおい! 適当に返事してるのバレバレだっつ〜の! ウチとしては、高等部で話題の人物、四人のうち、三人が自分のクラスだってことに、めっちゃテン上げなんだけど……アヤは、気にならないの? 『学院アワード』の女子の優勝候補は、アヤと山口カリンの一騎打ちなんだよ?」
「ん〜、そっか……そうなんだ」
気合いを入れろ、と発破をかけるような言葉をかけるナミには申し訳ないと思うんだけど――――――。
わたしとしては、自分自身が、『学内アワード』で人気投票トップになることに、さして関心が持てないでいた。
「なんだよ〜。せっかく、土曜日は、アヤの代わりに、あの生意気な後輩にガツンとかまして来てあげたのにさ〜」
わたしの素っ気ないというか、心ここにあらずの返答を不満に感じたのか、愚痴っぽい言葉を吐く友人に、笑顔で、
「そのことについては、感謝してるって! ありがとう、ナミ」
そう返答すると、彼女は、
「ん〜、わかってるならイイんだけどさ〜」
と、前置きしたあと、
「でも、気をつけなよ? あのコ、まだナニか、アヤに対して思うところがある気がするんだよね〜」
と言って、言葉を締めくくった。
わたしのことを心配してくれるナミには感謝しかないけど、彼氏を取られた側である自分が、なぜ、いまの相手に執着されなければならないのか、まったく、意味がわからなかった。
もっとも、わからない……と言えば、相手を取られた自分が、元カレや、彼のいまの彼女に対して、ほとんど、気持ちが動かなくなってしまったことも、自分自身のことながら、その理由も、良くわからないままだ――――――。
いまの自分の気持ちを占めているのは、元カレや、わたしに突っかかってくる彼女ではなく、二日前のステージで、隣に立っていたクラスメートのことだった。
ナミとの賭けを持ち出すまでもなく、わたしの目的は、深津寿太郎のイメチェン計画で、クラスの冴えない三軍男子の彼を、女子から注目されるような存在に仕立てあげることだ。
実際、元カレの場合は、まだ注目を集める前の彼のファッションセンスをコーディネートして、彼自身が、どんどん、動画視聴者やネットメディアの注目を集める存在に育っていくことに喜びを感じていた。
それなのに――――――。
いま、彼が学園内の(特に女子から)注目を集め始めることについては、まったく喜びを感じられないでいた。
さらに、彼のことをウワサするクラスや学内の女子たちの言葉を耳にすると、
(寿太郎のことをなんにも知らないクセに、なに好きなこと言ってるんだろう?)
(柚寿ちゃんが舞台で言っていたように、素の寿太郎は、蛙化するまでもないくらい、スキだらけで、ドンくさいヤツなのに……)
(ちょっと、お肌や眉を整えて、髪型を変えたくらいで、手のひらを返したように騒ぐなんて、みんな軽すぎない?)
そんな、ネガティブな感情が、込み上げてくる。
いまの寿太郎が注目を集めるようになったのは、自分が大きく関わっているという自負はあるけど、そのことが、喜びになるどころか、むしろ、彼自身の負担になってはいないだろうか……と、ここ数日は、そのことばかりが気になっていた。
そんな周りへの苛立ちと寿太郎への罪悪感とで、モヤモヤした気分のなか、わたしとナミの会話を黙って聞いていた、もうひとりの友人が、不意に声をかけてきた。
「ねぇ、亜矢……深津くん……ううん、寿太郎くんのことで、亜矢に言っておきたいことがあるんだ」
切羽詰まったような表情で語りかけてくるリコ。
その言葉と表情は、ある意味でわたしが予想していたモノだった――――――。
(ついに、来たか――――――)
彼女の考えていることをシッカリと受け止めようと、わたしは、親友の言葉に耳を傾けることにした。
ネット・スターの当惑〜瓦木亜矢の場合〜
週末に香子園浜で開催されたリハーサルを兼ねた『打ち入りパーティ』でのステージ上の出来事は、SNSを通じて、打ち入りに参加していなかった生徒にもすぐに拡散されていった。
なかでも、
・ハルカ&カリンの『名もなき愛とは』
・わたし&寿太郎の『シンデレラガール』
・映文研メンバーの『Canned Heat』
・シトラスFの話芸『蛙化現象』
のパフォーマンスは、映像コンテンツが揃っていたこともあり、打ち入り参加者の口コミとの相乗効果で、大きな話題を集めていた。
「カリンちゃんって、二年の山口さんだよね? ハルカくんとイイ感じだったんじゃない?」
「私は、瓦木さんと深津くんのデュエットも良かったと思うな〜。ふたりとも息が合ってた感じじゃない?」
「いや、まさか、映文研のヤツらが、あんな芸を隠し持ってたなんて知らなかったわ……」
「そのあとの『蛙化現象』のネタも受けたけどな〜。中等部のあの女の子、深津の妹らしいぞ」
自分たちのクラスをはじめ、学内からは、さまざまな意見が聞こえてくるようになった。
ただ、彼ら、彼女らの関心事は、一点に集中しているようだ……。
「――――――で、『学院アワード』は、誰に投票する?」
三日月祭に向けた準備で、学園中が浮ついた雰囲気になる中、放課後、クラスの演物である執事喫茶の衣装合わせの最中に、ナミが声をかけて来た。
「いや〜、打ち入りイベント当日も、面白そうなことになるだろうな、と思ってたけど……学園中が、こんなにも盛り上がるとは思ってなかったわ〜。いまや、二年の山口カリンと、ウチらのクラスの高須と深津は、学校内の注目の的じゃん!」
学園祭前の高揚感からか、いつも以上にテンションの高い友人の言葉に対して、わたしは、衣装の確認を行いながら、投げやりに聞こえないように、注意しつつ、
「ん〜、確かに、そうだね〜」
と、答えを返す。
「おいおい! 適当に返事してるのバレバレだっつ〜の! ウチとしては、高等部で話題の人物、四人のうち、三人が自分のクラスだってことに、めっちゃテン上げなんだけど……アヤは、気にならないの? 『学院アワード』の女子の優勝候補は、アヤと山口カリンの一騎打ちなんだよ?」
「ん〜、そっか……そうなんだ」
気合いを入れろ、と発破をかけるような言葉をかけるナミには申し訳ないと思うんだけど――――――。
わたしとしては、自分自身が、『学内アワード』で人気投票トップになることに、さして関心が持てないでいた。
「なんだよ〜。せっかく、土曜日は、アヤの代わりに、あの生意気な後輩にガツンとかまして来てあげたのにさ〜」
わたしの素っ気ないというか、心ここにあらずの返答を不満に感じたのか、愚痴っぽい言葉を吐く友人に、笑顔で、
「そのことについては、感謝してるって! ありがとう、ナミ」
そう返答すると、彼女は、
「ん〜、わかってるならイイんだけどさ〜」
と、前置きしたあと、
「でも、気をつけなよ? あのコ、まだナニか、アヤに対して思うところがある気がするんだよね〜」
と言って、言葉を締めくくった。
わたしのことを心配してくれるナミには感謝しかないけど、彼氏を取られた側である自分が、なぜ、いまの相手に執着されなければならないのか、まったく、意味がわからなかった。
もっとも、わからない……と言えば、相手を取られた自分が、元カレや、彼のいまの彼女に対して、ほとんど、気持ちが動かなくなってしまったことも、自分自身のことながら、その理由も、良くわからないままだ――――――。
いまの自分の気持ちを占めているのは、元カレや、わたしに突っかかってくる彼女ではなく、二日前のステージで、隣に立っていたクラスメートのことだった。
ナミとの賭けを持ち出すまでもなく、わたしの目的は、深津寿太郎のイメチェン計画で、クラスの冴えない三軍男子の彼を、女子から注目されるような存在に仕立てあげることだ。
実際、元カレの場合は、まだ注目を集める前の彼のファッションセンスをコーディネートして、彼自身が、どんどん、動画視聴者やネットメディアの注目を集める存在に育っていくことに喜びを感じていた。
それなのに――――――。
いま、彼が学園内の(特に女子から)注目を集め始めることについては、まったく喜びを感じられないでいた。
さらに、彼のことをウワサするクラスや学内の女子たちの言葉を耳にすると、
(寿太郎のことをなんにも知らないクセに、なに好きなこと言ってるんだろう?)
(柚寿ちゃんが舞台で言っていたように、素の寿太郎は、蛙化するまでもないくらい、スキだらけで、ドンくさいヤツなのに……)
(ちょっと、お肌や眉を整えて、髪型を変えたくらいで、手のひらを返したように騒ぐなんて、みんな軽すぎない?)
そんな、ネガティブな感情が、込み上げてくる。
いまの寿太郎が注目を集めるようになったのは、自分が大きく関わっているという自負はあるけど、そのことが、喜びになるどころか、むしろ、彼自身の負担になってはいないだろうか……と、ここ数日は、そのことばかりが気になっていた。
そんな周りへの苛立ちと寿太郎への罪悪感とで、モヤモヤした気分のなか、わたしとナミの会話を黙って聞いていた、もうひとりの友人が、不意に声をかけてきた。
「ねぇ、亜矢……深津くん……ううん、寿太郎くんのことで、亜矢に言っておきたいことがあるんだ」
切羽詰まったような表情で語りかけてくるリコ。
その言葉と表情は、ある意味でわたしが予想していたモノだった――――――。
(ついに、来たか――――――)
彼女の考えていることをシッカリと受け止めようと、わたしは、親友の言葉に耳を傾けることにした。