わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜①
11月2日
ネット・スターの後悔〜瓦木亜矢の場合〜
三日月祭の演物として、クラスで行う執事喫茶の買い出しに出かける直前、自分の不用意な発言を柚寿ちゃんに聞かれて以来、彼女と、その兄であるクラスメートの寿太郎とは連絡が取れないままでいた。
校門から走り去った柚寿ちゃんには、《LANE》で通話やメッセージ送信をしてみたけど、すでにブロックされてしまったあとだった。
そして、寿太郎とは連絡先の交換をしていなかったので、彼が学校に登校して来ない以上、コミュニケーションを取る手段がない。
わたしの身勝手な計画に巻き込むカタチになった彼自身だけでなく、彼の妹の気持ちまで傷つけてしまった自分の不甲斐なさに、今さらながら、苛立ちと腹立たしさを覚える。
(あの兄妹には、どうにかして謝りたいけど……でも、そんな機会すらもらえなくて当然か……)
最初に、冴えない男子のイメチェン計画を企画したときの自分の思惑がストレートに伝わってしまったのであれば、わたしに弁解の余地なんてない。
自分が、寿太郎のそばに居るのに相応しい存在ではない――――――という想いは、いままで以上に強くなったけれど、それでも、このまま、あの兄妹と疎遠になってしまうのは、寂しく、悲しいという気持ちがあふれてくる。
(そんなふうに感じる資格なんて、自分にはないのに……)
モヤモヤどころか、黒い雲に覆われたような感情を抱えたまま、わたしは、高校生活最後の三日月祭を迎えようとしていた。
それでも、クラスの演物として行う執事喫茶の準備では、クラスメートに落ち込んだ顔を見せないように、教室では気を張っていたんだけど……。
「昨日から、深津くん学校に来てないよね〜。せっかく、イケてる感じになってるし、用意した衣装、着てほしかったな〜」
そんな声が聞こえてくると、罪悪感と申し訳なさで、笑顔をつづけるのも難しくなる。
そんなわたしのようすに気づいたのか、空気を読まないことに定評がある方の友人が、声をかけてきた。
「三日月祭は、もう明日なのに、《学院アワード》の主役候補が、なに暗い顔してんの?」
「ナミ……ごめん、ちょっと、いま、気分が上がらない」
色々と事情を知っている彼女には、つい本音を漏らしてしまう。
すると、彼女は、やれやれ……と、軽く首を左右に振りながら、
「リコから聞いたよ。どうせ、アイツのことでも考えてるんでしょ? 深津のことは、ウチも無関係とは言えないけどさ……アイツが休んでることと、アヤが関係あると決まったわけじゃないじゃん?」
と、わたしを慰めるように優しい声で語った。
彼女の言うとおり、寿太郎の欠席理由と月曜日に柚寿ちゃんに話しを聞かれたことが無関係なら、少しはわたしの気持ちも軽くなるけど……。
状況的に自分と寿太郎が学校に来なくなった利用が、関係ないとは考えにくい。
このまま、寿太郎が三日月祭に出てこないということにでもなれば、わたしは、深津兄妹に対する申し訳なさで、この場所から消え去りたくなるような気持ちになる……。
だけど、そんな感情すら、自分勝手な自己憐憫だと気づき、さらに気分が落ち込む。
それでも、クラスのみんなに迷惑をかけないよう、翌日の準備を進めると、衣装や提供する食材の用意が整ったところで、わたしのそばに、気配りの達人である友人が、そっと近寄ってきた。
「亜矢、元気がなさそうだけど……寿太郎くんのことが気になってるなら、お家に行ってみたら?」
リコが気をつかってくれるのはありがたい。
だけど、クラスの仕事を放り出して、自分の事情を優先するわけにはいかない。
「ありがとう、リコ……でも、明日から本番だし、まだ準備は終わってないから……」
そう返答すると、親友は、いつもの目にチカラを込めて、説得するように語りかけてきた。
「亜矢、そう言うけど、本当に後悔しない? 明日の準備はもうほとんど終わってるし、クラスの方は、亜矢がいなくても大丈夫だけど……寿太郎くんのことは、亜矢本人が行動するしかないんだよ?」
それでも、決心がつかないでいると、リコは、
「あとは、私たちがやっておくからさ!」
そう言って、背中を押しながら、わたしを教室の外に追い出す。
さらに、わたしたちのようすを見ていたのか、タイミングよく、こちらに寄ってきたナミが、
「おっ、アヤは教室の外で仕事が残ってるみたいだね? ほら、カバン」
と、わたしに通学カバンを手渡しながら、
「もうちょっと、クラスメートのことを信頼しなよ」
と言って、ニコッと微笑んだ。
お節介とも言える友人ふたりの心づかいに感謝しながら、教室に残っているクラスメートたちに声をかける。
「みんな、前日なのにゴメンね……わたし、ちょっと、深津くんのところに行ってくる!」
そう宣言すると、
「亜矢、頼んだよ〜! 深津くんの分の衣装も用意してるからね〜!」
「もし、家に引きこもってるなら、オレたちアメフト部が、協力して連れ出すぞ〜」
という声が返ってきた。
「みんな、ありがとう! じゃあ行ってくるね!」
不甲斐ない自分を快く送り出してくれたクラスのみんなに感謝しながら、わたしは、寿太郎の自宅を目指した。
ネット・スターの後悔〜瓦木亜矢の場合〜
三日月祭の演物として、クラスで行う執事喫茶の買い出しに出かける直前、自分の不用意な発言を柚寿ちゃんに聞かれて以来、彼女と、その兄であるクラスメートの寿太郎とは連絡が取れないままでいた。
校門から走り去った柚寿ちゃんには、《LANE》で通話やメッセージ送信をしてみたけど、すでにブロックされてしまったあとだった。
そして、寿太郎とは連絡先の交換をしていなかったので、彼が学校に登校して来ない以上、コミュニケーションを取る手段がない。
わたしの身勝手な計画に巻き込むカタチになった彼自身だけでなく、彼の妹の気持ちまで傷つけてしまった自分の不甲斐なさに、今さらながら、苛立ちと腹立たしさを覚える。
(あの兄妹には、どうにかして謝りたいけど……でも、そんな機会すらもらえなくて当然か……)
最初に、冴えない男子のイメチェン計画を企画したときの自分の思惑がストレートに伝わってしまったのであれば、わたしに弁解の余地なんてない。
自分が、寿太郎のそばに居るのに相応しい存在ではない――――――という想いは、いままで以上に強くなったけれど、それでも、このまま、あの兄妹と疎遠になってしまうのは、寂しく、悲しいという気持ちがあふれてくる。
(そんなふうに感じる資格なんて、自分にはないのに……)
モヤモヤどころか、黒い雲に覆われたような感情を抱えたまま、わたしは、高校生活最後の三日月祭を迎えようとしていた。
それでも、クラスの演物として行う執事喫茶の準備では、クラスメートに落ち込んだ顔を見せないように、教室では気を張っていたんだけど……。
「昨日から、深津くん学校に来てないよね〜。せっかく、イケてる感じになってるし、用意した衣装、着てほしかったな〜」
そんな声が聞こえてくると、罪悪感と申し訳なさで、笑顔をつづけるのも難しくなる。
そんなわたしのようすに気づいたのか、空気を読まないことに定評がある方の友人が、声をかけてきた。
「三日月祭は、もう明日なのに、《学院アワード》の主役候補が、なに暗い顔してんの?」
「ナミ……ごめん、ちょっと、いま、気分が上がらない」
色々と事情を知っている彼女には、つい本音を漏らしてしまう。
すると、彼女は、やれやれ……と、軽く首を左右に振りながら、
「リコから聞いたよ。どうせ、アイツのことでも考えてるんでしょ? 深津のことは、ウチも無関係とは言えないけどさ……アイツが休んでることと、アヤが関係あると決まったわけじゃないじゃん?」
と、わたしを慰めるように優しい声で語った。
彼女の言うとおり、寿太郎の欠席理由と月曜日に柚寿ちゃんに話しを聞かれたことが無関係なら、少しはわたしの気持ちも軽くなるけど……。
状況的に自分と寿太郎が学校に来なくなった利用が、関係ないとは考えにくい。
このまま、寿太郎が三日月祭に出てこないということにでもなれば、わたしは、深津兄妹に対する申し訳なさで、この場所から消え去りたくなるような気持ちになる……。
だけど、そんな感情すら、自分勝手な自己憐憫だと気づき、さらに気分が落ち込む。
それでも、クラスのみんなに迷惑をかけないよう、翌日の準備を進めると、衣装や提供する食材の用意が整ったところで、わたしのそばに、気配りの達人である友人が、そっと近寄ってきた。
「亜矢、元気がなさそうだけど……寿太郎くんのことが気になってるなら、お家に行ってみたら?」
リコが気をつかってくれるのはありがたい。
だけど、クラスの仕事を放り出して、自分の事情を優先するわけにはいかない。
「ありがとう、リコ……でも、明日から本番だし、まだ準備は終わってないから……」
そう返答すると、親友は、いつもの目にチカラを込めて、説得するように語りかけてきた。
「亜矢、そう言うけど、本当に後悔しない? 明日の準備はもうほとんど終わってるし、クラスの方は、亜矢がいなくても大丈夫だけど……寿太郎くんのことは、亜矢本人が行動するしかないんだよ?」
それでも、決心がつかないでいると、リコは、
「あとは、私たちがやっておくからさ!」
そう言って、背中を押しながら、わたしを教室の外に追い出す。
さらに、わたしたちのようすを見ていたのか、タイミングよく、こちらに寄ってきたナミが、
「おっ、アヤは教室の外で仕事が残ってるみたいだね? ほら、カバン」
と、わたしに通学カバンを手渡しながら、
「もうちょっと、クラスメートのことを信頼しなよ」
と言って、ニコッと微笑んだ。
お節介とも言える友人ふたりの心づかいに感謝しながら、教室に残っているクラスメートたちに声をかける。
「みんな、前日なのにゴメンね……わたし、ちょっと、深津くんのところに行ってくる!」
そう宣言すると、
「亜矢、頼んだよ〜! 深津くんの分の衣装も用意してるからね〜!」
「もし、家に引きこもってるなら、オレたちアメフト部が、協力して連れ出すぞ〜」
という声が返ってきた。
「みんな、ありがとう! じゃあ行ってくるね!」
不甲斐ない自分を快く送り出してくれたクラスのみんなに感謝しながら、わたしは、寿太郎の自宅を目指した。