わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜③
三軍男子の動揺〜深津寿太郎の場合〜
週明けに、副部長の不知火に発破をかけられ、妹の柚寿の報告によって『亜矢の真意』を聞かされたオレは、その日の放課後から、動画の作成作業に入っていた。
月曜日の昼休みまでは編集方針が定まらず、自分の中でも作品の完成形というものが見えていなかったのだが……。
友人と妹から得られた指針と情報によって、自分自身の覚悟が決まったという側面が大きい。
(この、ひと月の経験は、とても、ひとつの作品に収めることはできない)
そう考えた寿太郎は、二本の作品を、それぞれ別々のテーマでまとめ上げることにした。
一本目は、オレ自身が被験体となった『三軍男子の改造計画』に関するドキュメンタリー。
これは、映文研の下級生メンバーや、イメチェン計画に協力してくれた亜矢たちに対して説明を行っていた、表向きの作品。
そして、二本目は、イメチェン計画の発案者でもあるクラスメートの真の姿に迫る『瓦木亜矢・一軍女子の素顔』。
こちらは、不知火の「カメラのチカラで、キラキラの一軍女子サマの真の姿ってヤツを明らかにしてやろうぜ!」という一言がきっかけになって生まれた作品であることは、説明するまでもないだろう。
ほぼ、月曜日の放課後から、まるまる二日の作業によって、三日月祭と『映像甲子園』に出品する『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えたオレは、部活動における最低限の責任が果たせたことに安堵しつつ、不知火のアドレスに動画データを添付したメールを送信し、仮眠をとったあと、次の作業に移ろうとしていた。
起動したままのノートPCで、動画編集ソフトの「ビデオの新規作成」ボタンをクリックしたところで、不意に自室のドアがノックされた。
「寿太郎、ちょっとイイかい?」
ドアの向こうからは、祖母の声が聞こえてきた。
「あぁ! 祖母ちゃん、どうしたの?」
そう返事すると、ゆっくりと扉を開けた祖母が、一枚の紙切れを手にして、自室に入ってきた。
「さっき、エントランスに、あんた宛にお客さんが来てたよ。ほら、この間、この家に来てた女の子……」
我が家に来たことのある女子といえば、亜矢と樋ノ口さんだが、祖母と面識があるのは……そして、このタイミングで、わざわざオレを訪ねて来る相手といえば、ひとりしかいないだろう。
「亜矢……瓦木さんか……その子、祖母ちゃんにナニか言ってた?」
そうたずねると、祖母は、小さく首を横に振ったあと、
「寿太郎は忙しいようだから、『そっとしておいてほしい』と伝えたら、『このメモを渡してほしい』って、言伝てをして、帰って行ったよ」
と、返答して、折りたたまれた紙をこちらに手渡してきた。
寿太郎は、手渡されたメモを少し開き、亜矢の名前を確認すると、内容の確認は後回しにして、彼女に応対してくれたことと、彼自身に対しての気づかいについて、祖母に礼を言う。
「ありがとう、祖母ちゃん。さっきまで、仮眠をとってたから、気づかなかった。『せっかくきてくれたのに申し訳ない』って、彼女には、今度会ったときに謝っておくよ」
すると、祖母は、苦笑と同情と困惑が混じったような複雑な表情で、
「どんな大事なことをしてるのか、祖母ちゃんにはわからないけど……あんまり、根を詰め過ぎて、女の子を悲しませないようにね……あんたの父親は、それが原因で、相手に逃げられたんだから……」
と、答えを返してきた。
寿太郎は、突然、父親のことを持ち出されて驚いたが、両親の離婚の件では、彼も柚寿も、祖母に負担をかけてしまっていることを自覚しているので、反省を示しつつ、少しだけ神妙なふりをして、
「あ〜、そうだな……気をつける」
と答えておいた。
彼の返答に満足したのかは定かではないが、祖母は、柔らかな表情で、ゆったりと小さく二度、首をたてに振り、
「もうすぐ、夕飯ができるから、今日は、キチンと食べるんだよ」
と、言い残して、廊下に出ていった。
『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えることができたことで、明日からの上映とコンテストの出品にメドがつき、映文研への責任は、なんとか果たすことができたが、亜矢をはじめとするクラスメートや自分自身の家族にも迷惑をかけていることをあらためて実感し、デスクワークでなまっていた身体をほぐしながら、軽くため息をつく。
周囲の人々に申し訳ない、という想いが芽生えると同時に、自分を訪ねてきてくれたというクラスメートの顔が浮かんできたので、ついさっき手渡されたメモを確認することにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
寿太郎には色々と謝りたいことがあります
ゆるしてほしい、と言える立場じゃない
ことはわかっているけれど…………
みんな、寿太郎のことを心配してるので、
三日月祭に出席してもらえると嬉しいです
AYA
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
LANEのアドレスを交換していれば、いまどき、こんなアナログなやり取りをしなくて済んだのにな……と、今さらながらに自分のコミュ障ぶりを後悔しながら、彼は、ある決意を胸に、もう一本の動画編集に取り掛かることにした。
週明けに、副部長の不知火に発破をかけられ、妹の柚寿の報告によって『亜矢の真意』を聞かされたオレは、その日の放課後から、動画の作成作業に入っていた。
月曜日の昼休みまでは編集方針が定まらず、自分の中でも作品の完成形というものが見えていなかったのだが……。
友人と妹から得られた指針と情報によって、自分自身の覚悟が決まったという側面が大きい。
(この、ひと月の経験は、とても、ひとつの作品に収めることはできない)
そう考えた寿太郎は、二本の作品を、それぞれ別々のテーマでまとめ上げることにした。
一本目は、オレ自身が被験体となった『三軍男子の改造計画』に関するドキュメンタリー。
これは、映文研の下級生メンバーや、イメチェン計画に協力してくれた亜矢たちに対して説明を行っていた、表向きの作品。
そして、二本目は、イメチェン計画の発案者でもあるクラスメートの真の姿に迫る『瓦木亜矢・一軍女子の素顔』。
こちらは、不知火の「カメラのチカラで、キラキラの一軍女子サマの真の姿ってヤツを明らかにしてやろうぜ!」という一言がきっかけになって生まれた作品であることは、説明するまでもないだろう。
ほぼ、月曜日の放課後から、まるまる二日の作業によって、三日月祭と『映像甲子園』に出品する『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えたオレは、部活動における最低限の責任が果たせたことに安堵しつつ、不知火のアドレスに動画データを添付したメールを送信し、仮眠をとったあと、次の作業に移ろうとしていた。
起動したままのノートPCで、動画編集ソフトの「ビデオの新規作成」ボタンをクリックしたところで、不意に自室のドアがノックされた。
「寿太郎、ちょっとイイかい?」
ドアの向こうからは、祖母の声が聞こえてきた。
「あぁ! 祖母ちゃん、どうしたの?」
そう返事すると、ゆっくりと扉を開けた祖母が、一枚の紙切れを手にして、自室に入ってきた。
「さっき、エントランスに、あんた宛にお客さんが来てたよ。ほら、この間、この家に来てた女の子……」
我が家に来たことのある女子といえば、亜矢と樋ノ口さんだが、祖母と面識があるのは……そして、このタイミングで、わざわざオレを訪ねて来る相手といえば、ひとりしかいないだろう。
「亜矢……瓦木さんか……その子、祖母ちゃんにナニか言ってた?」
そうたずねると、祖母は、小さく首を横に振ったあと、
「寿太郎は忙しいようだから、『そっとしておいてほしい』と伝えたら、『このメモを渡してほしい』って、言伝てをして、帰って行ったよ」
と、返答して、折りたたまれた紙をこちらに手渡してきた。
寿太郎は、手渡されたメモを少し開き、亜矢の名前を確認すると、内容の確認は後回しにして、彼女に応対してくれたことと、彼自身に対しての気づかいについて、祖母に礼を言う。
「ありがとう、祖母ちゃん。さっきまで、仮眠をとってたから、気づかなかった。『せっかくきてくれたのに申し訳ない』って、彼女には、今度会ったときに謝っておくよ」
すると、祖母は、苦笑と同情と困惑が混じったような複雑な表情で、
「どんな大事なことをしてるのか、祖母ちゃんにはわからないけど……あんまり、根を詰め過ぎて、女の子を悲しませないようにね……あんたの父親は、それが原因で、相手に逃げられたんだから……」
と、答えを返してきた。
寿太郎は、突然、父親のことを持ち出されて驚いたが、両親の離婚の件では、彼も柚寿も、祖母に負担をかけてしまっていることを自覚しているので、反省を示しつつ、少しだけ神妙なふりをして、
「あ〜、そうだな……気をつける」
と答えておいた。
彼の返答に満足したのかは定かではないが、祖母は、柔らかな表情で、ゆったりと小さく二度、首をたてに振り、
「もうすぐ、夕飯ができるから、今日は、キチンと食べるんだよ」
と、言い残して、廊下に出ていった。
『三軍男子の改造計画』の編集作業を終えることができたことで、明日からの上映とコンテストの出品にメドがつき、映文研への責任は、なんとか果たすことができたが、亜矢をはじめとするクラスメートや自分自身の家族にも迷惑をかけていることをあらためて実感し、デスクワークでなまっていた身体をほぐしながら、軽くため息をつく。
周囲の人々に申し訳ない、という想いが芽生えると同時に、自分を訪ねてきてくれたというクラスメートの顔が浮かんできたので、ついさっき手渡されたメモを確認することにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
寿太郎には色々と謝りたいことがあります
ゆるしてほしい、と言える立場じゃない
ことはわかっているけれど…………
みんな、寿太郎のことを心配してるので、
三日月祭に出席してもらえると嬉しいです
AYA
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LANEのアドレスを交換していれば、いまどき、こんなアナログなやり取りをしなくて済んだのにな……と、今さらながらに自分のコミュ障ぶりを後悔しながら、彼は、ある決意を胸に、もう一本の動画編集に取り掛かることにした。