わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜⑦
ネット・スターの後悔〜瓦木亜矢の場合〜
スマホを確認すると、時刻は、午後三時を回っていた。
高等部と中等部の共用している校門前に作られた大型スクリーンが設置された特設ステージでは、『学院アワード』の投票を締めくくる舞台の演目が続いている。
そのステージの出演を待つ生徒も、減っていき、残っているのは、わたしと山口さんの二組となった。
わたしたちの出番の前にステージに立っていたグリークラブが壇上から降りてくると、待ちわびていたかのように、下級生が舞台に駆け上がっていく。
そして、彼女は、ステージの中央に立つと、舞台袖のこちら側をチラリと振り返り、手を振ってきた。
その行動をいぶかしげに感じながら、舞台に立つ緊張と嬉しさが混じったような下級生の表情を観察すると、その視線は、わたし自身ではなく、わたしのやや斜めうしろに向けられていることがわかる。
彼女の視線を追って振り向くと、二学期が始まるまでは、親しみを感じていた顔がそこにはあった。
その相手は、舞台の上の現在の彼女に手を振り返すと、わたしの方に向き直り、
「やあ、亜矢ちゃん。久しぶりだね」
と、いつもどおりの柔和な表情で語りかけてくる。
「大学生が、高等部の文化祭に来ていて良いの? 大学も、学祭本番中でしょ?」
ひと月ほど前とは違い、彼の表情になんの感情もわかなくなったわたしは、素っ気なく答える。
「つれないなぁ……ボクは、キミと話したいと思っているんだけど……」
微苦笑を浮かべながら返答する相手に、わたしは、前日も、今カノさんに伝えたことを繰り返す。
「そう思っているなら、どうして、これまでわたしに感じていたことを彼女に代弁させたりしたの? 不満があるなら、直接、自分で言いにくればイイでしょ?」
すると、彼は、驚いたような表情で、
「そんな……キミに不満なんて……カリンちゃんが、そう言ってたの?」
そう言ったあと、
「亜矢ちゃん……ただ、ボクは、キミにキチンと謝罪したかっただけなんだ……」
と、申し訳なさそうなようすで、絞り出すように声を出す。
そんな彼の態度に対して、苛立ちを通り越して、あきれるような感情を覚えた。
「いまさら、謝られたって……ハルカ君、その謝罪は、あなたが心苦しく思っている気持ちを精算したいだけでしょう? そういうのは、『自分勝手な自己憐憫』って言うんだよ? 本当に申し訳なく思っている気持ちがあるなら、もう、わたしには関わらないでくれる?」
そう言い放つと、わたしと彼の間には、沈黙が流れる。
その間、舞台の上では、注目を集める《歌い手》の現在の恋人が、ステージ前の観衆を前にして、自己紹介と行い、本日の演目について語り始めていた。
「みなさん、こんにちは! 高等部二年の山口カリンです! 動画で見てくれた人も多いと思うんだけど……先週は、私の大切なヒトとデュエットをさせてもらったんですが……!今日は、その大切なカレが、私のために作ってくれた歌を歌わせてもらおうと思います! それでは聞いてください『たいせつなあなた』!」
聞くともなしに耳に入ってきた、あまりにお約束すぎる展開に、思わず不思議な笑いがこみ上げてくる。
「彼女のために、曲まで作るなんて……さすが、『本当の愛』を見つけた《歌い手》さんね」
あきれるという感情をはるかに通り越し、その最上級のあきれ果てるという感情が芽生えたことによって発せられた、皮肉交じりのわたしの言葉にバツの悪さを感じたのか、元カレは、自責の念に耐えれないのか、ただ、目を伏せている。
「ここで黙ってうつむいているより、舞台が良く見えるところから、彼女を応援してあげたら? わたしも、自分の出番に備えたいしね」
そう告げて、言外にココから立ち去ってほしいことを匂わせると、彼女思いの《歌い手》は、
「あぁ……そ、そうだね……」
と、返事をしてから、
「それじゃ、もし、話しをしたくなったら、いつでも、連絡をちょうだい」
そう言って、舞台袖から、ステージ前に去って行く。
そのようすを無言で見送りな、
(相手の都合も考えずに、どこまでも自分勝手な人……)
(でも、それを言うなら、わたし自身も――――――)
と、ふたたび自己嫌悪に陥る。
そんな気分の落ち込みを振り払うように、自分の舞台に向けて、気持ちを切り替えようとすると、ポケットに入れておいたスマホが鳴動し、LANEのメッセージ通知が表示された。
すぐにアプリを起動すると、メッセージの送信主は、わたしをブロック設定していた柚寿ちゃんだった。
==================
月曜日はお話しも聞かずに、
帰ってしまってゴメンナサイ
私たち今日は舞台に立ちません
そのかわりに……
うちの兄が亜矢ちゃんのことを
まとめた動画を編集しています
ステージで上映するそうなので
見てくれると嬉しいです
==================
寿太郎が、わたしに関する動画を作っている――――――?
自分にとっては、初耳だけど、もしかして、今日までずっと登校して来なかったのは、そのためなのだろうか?
その内容は、とても気になるけれど――――――。
いまは、自分の立つ舞台に集中しようと、再度、気持ちを整える。
そうして、いよいよ覚悟を決めて、ステージに登壇しようとすると、突然、舞台進行を務める三日月祭実行委員会に
「瓦木さん、ちょっとゴメン」
と、呼び止められ、舞台上のスピーカーを通じてアナウンスが入った。
「ここで、特別ゲストの参戦です! 先週のリハーサルでも大好評だった、映像文化研究会の有志によるブレイキング・ダンスを披露してもらいましょう!」
スマホを確認すると、時刻は、午後三時を回っていた。
高等部と中等部の共用している校門前に作られた大型スクリーンが設置された特設ステージでは、『学院アワード』の投票を締めくくる舞台の演目が続いている。
そのステージの出演を待つ生徒も、減っていき、残っているのは、わたしと山口さんの二組となった。
わたしたちの出番の前にステージに立っていたグリークラブが壇上から降りてくると、待ちわびていたかのように、下級生が舞台に駆け上がっていく。
そして、彼女は、ステージの中央に立つと、舞台袖のこちら側をチラリと振り返り、手を振ってきた。
その行動をいぶかしげに感じながら、舞台に立つ緊張と嬉しさが混じったような下級生の表情を観察すると、その視線は、わたし自身ではなく、わたしのやや斜めうしろに向けられていることがわかる。
彼女の視線を追って振り向くと、二学期が始まるまでは、親しみを感じていた顔がそこにはあった。
その相手は、舞台の上の現在の彼女に手を振り返すと、わたしの方に向き直り、
「やあ、亜矢ちゃん。久しぶりだね」
と、いつもどおりの柔和な表情で語りかけてくる。
「大学生が、高等部の文化祭に来ていて良いの? 大学も、学祭本番中でしょ?」
ひと月ほど前とは違い、彼の表情になんの感情もわかなくなったわたしは、素っ気なく答える。
「つれないなぁ……ボクは、キミと話したいと思っているんだけど……」
微苦笑を浮かべながら返答する相手に、わたしは、前日も、今カノさんに伝えたことを繰り返す。
「そう思っているなら、どうして、これまでわたしに感じていたことを彼女に代弁させたりしたの? 不満があるなら、直接、自分で言いにくればイイでしょ?」
すると、彼は、驚いたような表情で、
「そんな……キミに不満なんて……カリンちゃんが、そう言ってたの?」
そう言ったあと、
「亜矢ちゃん……ただ、ボクは、キミにキチンと謝罪したかっただけなんだ……」
と、申し訳なさそうなようすで、絞り出すように声を出す。
そんな彼の態度に対して、苛立ちを通り越して、あきれるような感情を覚えた。
「いまさら、謝られたって……ハルカ君、その謝罪は、あなたが心苦しく思っている気持ちを精算したいだけでしょう? そういうのは、『自分勝手な自己憐憫』って言うんだよ? 本当に申し訳なく思っている気持ちがあるなら、もう、わたしには関わらないでくれる?」
そう言い放つと、わたしと彼の間には、沈黙が流れる。
その間、舞台の上では、注目を集める《歌い手》の現在の恋人が、ステージ前の観衆を前にして、自己紹介と行い、本日の演目について語り始めていた。
「みなさん、こんにちは! 高等部二年の山口カリンです! 動画で見てくれた人も多いと思うんだけど……先週は、私の大切なヒトとデュエットをさせてもらったんですが……!今日は、その大切なカレが、私のために作ってくれた歌を歌わせてもらおうと思います! それでは聞いてください『たいせつなあなた』!」
聞くともなしに耳に入ってきた、あまりにお約束すぎる展開に、思わず不思議な笑いがこみ上げてくる。
「彼女のために、曲まで作るなんて……さすが、『本当の愛』を見つけた《歌い手》さんね」
あきれるという感情をはるかに通り越し、その最上級のあきれ果てるという感情が芽生えたことによって発せられた、皮肉交じりのわたしの言葉にバツの悪さを感じたのか、元カレは、自責の念に耐えれないのか、ただ、目を伏せている。
「ここで黙ってうつむいているより、舞台が良く見えるところから、彼女を応援してあげたら? わたしも、自分の出番に備えたいしね」
そう告げて、言外にココから立ち去ってほしいことを匂わせると、彼女思いの《歌い手》は、
「あぁ……そ、そうだね……」
と、返事をしてから、
「それじゃ、もし、話しをしたくなったら、いつでも、連絡をちょうだい」
そう言って、舞台袖から、ステージ前に去って行く。
そのようすを無言で見送りな、
(相手の都合も考えずに、どこまでも自分勝手な人……)
(でも、それを言うなら、わたし自身も――――――)
と、ふたたび自己嫌悪に陥る。
そんな気分の落ち込みを振り払うように、自分の舞台に向けて、気持ちを切り替えようとすると、ポケットに入れておいたスマホが鳴動し、LANEのメッセージ通知が表示された。
すぐにアプリを起動すると、メッセージの送信主は、わたしをブロック設定していた柚寿ちゃんだった。
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月曜日はお話しも聞かずに、
帰ってしまってゴメンナサイ
私たち今日は舞台に立ちません
そのかわりに……
うちの兄が亜矢ちゃんのことを
まとめた動画を編集しています
ステージで上映するそうなので
見てくれると嬉しいです
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寿太郎が、わたしに関する動画を作っている――――――?
自分にとっては、初耳だけど、もしかして、今日までずっと登校して来なかったのは、そのためなのだろうか?
その内容は、とても気になるけれど――――――。
いまは、自分の立つ舞台に集中しようと、再度、気持ちを整える。
そうして、いよいよ覚悟を決めて、ステージに登壇しようとすると、突然、舞台進行を務める三日月祭実行委員会に
「瓦木さん、ちょっとゴメン」
と、呼び止められ、舞台上のスピーカーを通じてアナウンスが入った。
「ここで、特別ゲストの参戦です! 先週のリハーサルでも大好評だった、映像文化研究会の有志によるブレイキング・ダンスを披露してもらいましょう!」