わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜⑪
スクリーンの登場人物は、ゆっくりと話し始めた。
「いつもは、カメラを向ける側だから、こうして向きあって話すのは緊張するな……。この映像がみんなの前で流れているということは、なんとか編集が間に合ったということで、自分自身をほめたいと思う」
言葉のとおり、緊張した面持ちの寿太郎が、カメラに向かって語りかけている。
自分が、こうしたことに慣れているからか、ぎこちないけれど、一生懸命、話しをしようとする彼のようすを見ると、微笑ましく感じてしまう。
ただ、その後につづく彼の言葉は、わたしの表情を凍りつかせた。
「映文研で上映した『深津寿太郎・改造計画』のドキュメンタリーを見てくれた人も、この中にはいるかも知れないけど……ぼくが、別の形で、この動画を編集したのには、理由がある。それは、『深津寿太郎・改造計画』の発案者であり、プロデューサーでもある、SNSでカリスマ的な人気を誇るクラスメートに密着して、その素顔……本当の姿を暴こうと思ったからだ」
そっか……そういうことだったんだ――――――。
自分の都合で振り回したことを思えば、その相手の口から、どんな言葉が出てこようと受け止める覚悟はできていたけれど、予想もしていなかった内容に、動揺が隠せない。
口元に手を当て、視線が定まっていないことが自分でも感じられる。
わたしのそんなようすに気づいたのか、意外にも、隣にいたナミが、そっと、肩を抱いてくれた。
ただ、わたしたちのようすに構うことなく、映像のなかの人物は、淡々と語り続ける。
「それでは、ご覧いただきたいと思います。『あるクラスメートの素顔』」
寿太郎がタイトルをコールすると、言葉どおりの作品タイトルが表示され、画面は、わたしの自宅で撮影したインタビュー・シーンに切り替わり、スクリーンには、インタビュアーである彼の声と、わたし自身の姿が映し出された。
――――――では、映像文化研究会と有志による合同企画、瓦木亜矢プレゼンツ『深津寿太郎・改造計画』の発案者にして、《ミンスタグラム》でも絶大な支持を得ている瓦木亜矢さんに、インタビューをして行きたいと思います。まず、今回の企画を思いついたキッカケを教えて。
「そうだな〜。これは、友だちのふたりにも話したんだけど……美容やスキンケアの内容って、なかなか男性の視聴者を獲得するのって難しいんだ。そこで、校内の普通の男子生徒に協力してもらったら、多くの人に興味を持ってもらえるんじゃないかって、考えたの?」
――――――なるほど……でも、今回の『改造計画』の対象になっている人物は、学校内でも、かなり冴えない、イケてないヤツだと思うんだけど……その点について、不安はなかった?
「冴えない、イケてないって、自覚はあるんだ(笑)まぁ、ハードルは高ければ高いほど、やり甲斐はあるしね……自分のプロデュース能力を試せる良い機会だと思ってる」
寿太郎の少し自虐的なインタビューと、(客観的に見れば)わたしの傲慢とも言える発言に、ステージ前の客席からは、小さな笑いが起きる。
さらに、インタビュー・シーンは続く。
――――――今日で、全体日程の第1フェーズが終了したわけだけど……現時点での手応えは、どんな感じ?
「自分でも、結構、手応えを感じてるよ? 肌もサッパリしていると思うし、眉を整えるだけでも、かなり顔の印象が変わるってことは、本人も感じてるんじゃない? その辺りはどう?」
――――――たしかに、自分でも、かなりイメージが変わった気がする……イメチェンって、こんな感じなのかな、って……
「そう感じてもらえるなら、プロデューサー冥利に尽きるな〜。この企画を始めて良かったと思う!」
――――――それじゃ、こっちからも、質問をさせてもらおう。瓦木さんは、先月末、プライベートでショッキングなことがあったと思うんだけど、今回の企画に前向きに取り組んでくれているのは、どうして?
「あぁ、あのことね……そりゃ、カメラの前で、あんな失態をさらしてしまったのは、ショックだったけど……いつまでも、落ち込んでいられないしね〜。健気に、明るく、前向きに! 物語の最初に婚約破棄される系の小説やマンガの主人公って、みんなそうでしょ?」
画面の中のわたしが言い切ったところで、画面はふたたび、自室でカメラに向かう寿太郎に切り替わった。
「『健気に、明るく、前向きに――――――!』瓦木さんは、たしかに、そう言った。ときに、ふてぶてしく、図々しいとも感じられる彼女に、『健気』という言葉が相応しいのか、議論が別れるところだと思うけれど………………」
たっぷりと、タメを作って語る寿太郎の言葉に、客席の笑い声は、さらに大きくなった。
「でも、『明るく、前向きに!』という言葉は、彼女自身を表現するのに、ピッタリの言葉だと思う。その証拠に、今回のスキンケアや眉の手入れのために、彼女は、こんなにもたくさんの道具を、ぼくの自宅まで持って来てくれた……」
寿太郎が、そう語ったあと、いつの間に撮影していたんだろう、画面が切り替わって、わたしが深津家に持っていった、大量のスキンケアグッズなどが映し出される。
それらの男性用美容ケア用品を背景に、寿太郎のナレーションが重なった。
「ズボラな自分は、こんなに多くの男性向けケア用品が世の中に存在することにも驚いたけど……それを自宅から運んできてもらったということについて、感謝するべきだと素直に感じる。他人のために、これだけのことは、なかなかできることじゃない」
その言葉に、会場の多くの観客がうなずくのがわかった。
そして、制服の袖のあたりが小さく引っ張れるのを感じると、かたわらのリコが、こちらを見て、優しく微笑んでいる。
わたしが、友人に微笑み返すと、ステージの背後のスクリーンからは、
「それじゃあ、次は、もう少し彼女の素の表情に迫ってみよう」
というナレーションが流れ、画面は、ふたたびインタビュー・シーンに戻る。
――――――瓦木さんが、そういう小説とかマンガを読むなんて、意外だった。じゃあ、ここからは、趣味や普段の学校生活について、聞かせてもらおうかな? 学校で好きな科目とか得意な科目はある? 机のカバーの下に挟んでるのって、この前の古典のテストだよね?
「これはね〜、フフッ……赤点を期待したでしょ? ジャ〜ン、なんと、一◯◯点なんだな、コレが!」
――――――ピースサイン付きのドヤ顔を披露してくれて、ありがとう……古典の科目、得意なんだ? クラスでは、あんまり勉強の話しをしてるイメージはないけど……
「う〜ん、得意というよりは、好きな科目って感じかな? 古典の岡本先生が話してくれる故事成語のエピソードとか、好きなんだ! 難しいフレーズのように感じるけど、言葉の成り立ちは、人間くさいお話しが多かったりするし……」
――――――それは、わかる! 岡もっちゃん(編集注:岡本先生のことです)の話って面白いもんな! 自分も三国志とか好きだから興味深く聞けるって言うか……瓦木さんは、そういうことを学校の友だちと話したり、ネットの配信で語ったりはしないの?
「友だちと話したり、配信でこういう話題を出すことはないな〜。みんな勉強のこととかは話題にしないでしょ? あんまり、カワイイ感じじゃないしね……(苦笑)」
映像は、そこで一時停止画面になり、寿太郎がナレーションを重ねる。
「可愛いとか、可愛くないとかの基準で、周りの人間との話題が決まるということは、自分にとって、理解できない部分もあるけど……こうして、話しを聞かせてもらうと、普段、自分たちが描いていた彼女に対するイメージが、ガラリと変わるということに気づかされた……これは、ぼくにとって新鮮な発見だった。最後は、彼女自身の『学院アワード』や将来の展望についてたずねて、インタビューを締めくくろうと思う」
――――――もうすぐ、三日月祭の時期だよね? 『学院アワード』に向けて意気込みを聞かせて。
「自分の方は、あんなことがあったから、どうなるかな、って不安もある。でも、いまは、自分のことよりも、クラスの冴えない誰かさんを磨き上げることの方が大事かな? 期待に応えてよ、深津寿太郎くん」
――――――ん、善処する…………でも、どうして、瓦木さんは、そんなに『学院アワード』の投票や、SNSでのライブ配信にこだわるの?
「それはね――――――え〜と、ドコまで話したんだっけ?」
――――――ちょっと、中断してしまったからね(笑)『学院アワード』への投票にこだわる理由を聞かせて。
「この写真、誰だかわかる? 高校時代のわたしの両親」
――――――お母さんとお父さんも、うちの高等部の出身だったんだ?
「そう! 特に母は、高等部の『学院アワード』でトップになって、大学でも、ミス・キャンパスになったんだ」
――――――スゴい! そうだったんだ? 先に話しを聞いていれば、お母さんに高等部のことや三日月祭のことを色々と聞けたのに……。
「やめてよ(笑)母親だって、昔のことをアレコレ聞かれたくないんじゃない?」
――――――でも、瓦木さんが、『学院アワード』の投票にこだわる理由って……?
「そうだね……両親とのつながりを感じたいから、かな……父が亡くなってから、うちの母親は、ひとりでわたしを育ててくれたし……仕事が忙しい分、話し合える時間も少ないから……わたしが、目に見える結果を残すことで、娘にしてくれたことは間違っていないって……感謝を示すことも出来るかな、って考えてるんだ」
少し伏し目がちに答える画面の中のわたしが語り終えると、映像は、また、寿太郎の自室に切り替わった。
「こうして、彼女の話しを聞かせてもらうまで、ぼくは色々と誤解をしていたんだなと、気づく。彼女と親しくなる前は、クラスの中心にいる人間は、軽い話題で盛り上がっているだけの悩みのない連中なんだろうと思っていた。だけど、そうじゃない――――――」
淡々と語る寿太郎の語り口に、わたしだけなく、スクリーンを見守る観客が釘付けになっているのがわかる。
「彼女と接することで、色々な側面があることがわかってきた。彼女は、自分で口に出すほど、健気で奥ゆかしい性格ではないかも知れない。でも、明るく、前向きで、繊細で……なによりも、人を思いやる優しさを持っている。ぼくの所属する映文研のメンバーが、ほとんどの生徒に知られていなかったブレイク・ダンスの実力を披露できたのも、ぼく自身が、みんなに注目してもらえるようになったのも、彼女のひたむきな性格と人脈の広さ、そして、彼女自身が周りの人たちを気遣えるヒトだからだ」
スクリーンを通して伝わる寿太郎の声に、わたしの肩を抱くナミ、制服の袖をつかむリコのチカラが強くなった気がする。
映文研の下級生のみんなは、部長の言葉に同意するように、大きくうなずいていた。
「結局、最初に予定していた『学内やSNSでカリスマ的な人気を誇るクラスメートに密着して、その素顔、本当の姿を暴こう』という企画は、思っていたようには進まなかった。でも、ぼくは、それでも構わないと考えている。瓦木亜矢は、ぼくや映文研のメンバーに、これまで、関わりを持っていなかった多くの人と接することの楽しさを教えてくれた。なにより、ぼくにも、ぼくたちにも、新しい友だちや仲間が増えた。それだけで、十分だ」
スクリーンの中の彼が、そう言い切ると、会場からは拍手が湧き起こった。
「もし、まだ、『学院アワード』の投票を終えていない人がいたら、彼女のそんな魅力にも注目して、投票する生徒を決めてほしい。ぼくが、この映像を通して、みんなに伝えたかったのは、そのことだ――――――。ここまで、見てくれて、ありがとう」
寿太郎が、最後の言葉を語り終え、映像が停止すると、彼を称えるその音は、さらに大きなものになった。
「いつもは、カメラを向ける側だから、こうして向きあって話すのは緊張するな……。この映像がみんなの前で流れているということは、なんとか編集が間に合ったということで、自分自身をほめたいと思う」
言葉のとおり、緊張した面持ちの寿太郎が、カメラに向かって語りかけている。
自分が、こうしたことに慣れているからか、ぎこちないけれど、一生懸命、話しをしようとする彼のようすを見ると、微笑ましく感じてしまう。
ただ、その後につづく彼の言葉は、わたしの表情を凍りつかせた。
「映文研で上映した『深津寿太郎・改造計画』のドキュメンタリーを見てくれた人も、この中にはいるかも知れないけど……ぼくが、別の形で、この動画を編集したのには、理由がある。それは、『深津寿太郎・改造計画』の発案者であり、プロデューサーでもある、SNSでカリスマ的な人気を誇るクラスメートに密着して、その素顔……本当の姿を暴こうと思ったからだ」
そっか……そういうことだったんだ――――――。
自分の都合で振り回したことを思えば、その相手の口から、どんな言葉が出てこようと受け止める覚悟はできていたけれど、予想もしていなかった内容に、動揺が隠せない。
口元に手を当て、視線が定まっていないことが自分でも感じられる。
わたしのそんなようすに気づいたのか、意外にも、隣にいたナミが、そっと、肩を抱いてくれた。
ただ、わたしたちのようすに構うことなく、映像のなかの人物は、淡々と語り続ける。
「それでは、ご覧いただきたいと思います。『あるクラスメートの素顔』」
寿太郎がタイトルをコールすると、言葉どおりの作品タイトルが表示され、画面は、わたしの自宅で撮影したインタビュー・シーンに切り替わり、スクリーンには、インタビュアーである彼の声と、わたし自身の姿が映し出された。
――――――では、映像文化研究会と有志による合同企画、瓦木亜矢プレゼンツ『深津寿太郎・改造計画』の発案者にして、《ミンスタグラム》でも絶大な支持を得ている瓦木亜矢さんに、インタビューをして行きたいと思います。まず、今回の企画を思いついたキッカケを教えて。
「そうだな〜。これは、友だちのふたりにも話したんだけど……美容やスキンケアの内容って、なかなか男性の視聴者を獲得するのって難しいんだ。そこで、校内の普通の男子生徒に協力してもらったら、多くの人に興味を持ってもらえるんじゃないかって、考えたの?」
――――――なるほど……でも、今回の『改造計画』の対象になっている人物は、学校内でも、かなり冴えない、イケてないヤツだと思うんだけど……その点について、不安はなかった?
「冴えない、イケてないって、自覚はあるんだ(笑)まぁ、ハードルは高ければ高いほど、やり甲斐はあるしね……自分のプロデュース能力を試せる良い機会だと思ってる」
寿太郎の少し自虐的なインタビューと、(客観的に見れば)わたしの傲慢とも言える発言に、ステージ前の客席からは、小さな笑いが起きる。
さらに、インタビュー・シーンは続く。
――――――今日で、全体日程の第1フェーズが終了したわけだけど……現時点での手応えは、どんな感じ?
「自分でも、結構、手応えを感じてるよ? 肌もサッパリしていると思うし、眉を整えるだけでも、かなり顔の印象が変わるってことは、本人も感じてるんじゃない? その辺りはどう?」
――――――たしかに、自分でも、かなりイメージが変わった気がする……イメチェンって、こんな感じなのかな、って……
「そう感じてもらえるなら、プロデューサー冥利に尽きるな〜。この企画を始めて良かったと思う!」
――――――それじゃ、こっちからも、質問をさせてもらおう。瓦木さんは、先月末、プライベートでショッキングなことがあったと思うんだけど、今回の企画に前向きに取り組んでくれているのは、どうして?
「あぁ、あのことね……そりゃ、カメラの前で、あんな失態をさらしてしまったのは、ショックだったけど……いつまでも、落ち込んでいられないしね〜。健気に、明るく、前向きに! 物語の最初に婚約破棄される系の小説やマンガの主人公って、みんなそうでしょ?」
画面の中のわたしが言い切ったところで、画面はふたたび、自室でカメラに向かう寿太郎に切り替わった。
「『健気に、明るく、前向きに――――――!』瓦木さんは、たしかに、そう言った。ときに、ふてぶてしく、図々しいとも感じられる彼女に、『健気』という言葉が相応しいのか、議論が別れるところだと思うけれど………………」
たっぷりと、タメを作って語る寿太郎の言葉に、客席の笑い声は、さらに大きくなった。
「でも、『明るく、前向きに!』という言葉は、彼女自身を表現するのに、ピッタリの言葉だと思う。その証拠に、今回のスキンケアや眉の手入れのために、彼女は、こんなにもたくさんの道具を、ぼくの自宅まで持って来てくれた……」
寿太郎が、そう語ったあと、いつの間に撮影していたんだろう、画面が切り替わって、わたしが深津家に持っていった、大量のスキンケアグッズなどが映し出される。
それらの男性用美容ケア用品を背景に、寿太郎のナレーションが重なった。
「ズボラな自分は、こんなに多くの男性向けケア用品が世の中に存在することにも驚いたけど……それを自宅から運んできてもらったということについて、感謝するべきだと素直に感じる。他人のために、これだけのことは、なかなかできることじゃない」
その言葉に、会場の多くの観客がうなずくのがわかった。
そして、制服の袖のあたりが小さく引っ張れるのを感じると、かたわらのリコが、こちらを見て、優しく微笑んでいる。
わたしが、友人に微笑み返すと、ステージの背後のスクリーンからは、
「それじゃあ、次は、もう少し彼女の素の表情に迫ってみよう」
というナレーションが流れ、画面は、ふたたびインタビュー・シーンに戻る。
――――――瓦木さんが、そういう小説とかマンガを読むなんて、意外だった。じゃあ、ここからは、趣味や普段の学校生活について、聞かせてもらおうかな? 学校で好きな科目とか得意な科目はある? 机のカバーの下に挟んでるのって、この前の古典のテストだよね?
「これはね〜、フフッ……赤点を期待したでしょ? ジャ〜ン、なんと、一◯◯点なんだな、コレが!」
――――――ピースサイン付きのドヤ顔を披露してくれて、ありがとう……古典の科目、得意なんだ? クラスでは、あんまり勉強の話しをしてるイメージはないけど……
「う〜ん、得意というよりは、好きな科目って感じかな? 古典の岡本先生が話してくれる故事成語のエピソードとか、好きなんだ! 難しいフレーズのように感じるけど、言葉の成り立ちは、人間くさいお話しが多かったりするし……」
――――――それは、わかる! 岡もっちゃん(編集注:岡本先生のことです)の話って面白いもんな! 自分も三国志とか好きだから興味深く聞けるって言うか……瓦木さんは、そういうことを学校の友だちと話したり、ネットの配信で語ったりはしないの?
「友だちと話したり、配信でこういう話題を出すことはないな〜。みんな勉強のこととかは話題にしないでしょ? あんまり、カワイイ感じじゃないしね……(苦笑)」
映像は、そこで一時停止画面になり、寿太郎がナレーションを重ねる。
「可愛いとか、可愛くないとかの基準で、周りの人間との話題が決まるということは、自分にとって、理解できない部分もあるけど……こうして、話しを聞かせてもらうと、普段、自分たちが描いていた彼女に対するイメージが、ガラリと変わるということに気づかされた……これは、ぼくにとって新鮮な発見だった。最後は、彼女自身の『学院アワード』や将来の展望についてたずねて、インタビューを締めくくろうと思う」
――――――もうすぐ、三日月祭の時期だよね? 『学院アワード』に向けて意気込みを聞かせて。
「自分の方は、あんなことがあったから、どうなるかな、って不安もある。でも、いまは、自分のことよりも、クラスの冴えない誰かさんを磨き上げることの方が大事かな? 期待に応えてよ、深津寿太郎くん」
――――――ん、善処する…………でも、どうして、瓦木さんは、そんなに『学院アワード』の投票や、SNSでのライブ配信にこだわるの?
「それはね――――――え〜と、ドコまで話したんだっけ?」
――――――ちょっと、中断してしまったからね(笑)『学院アワード』への投票にこだわる理由を聞かせて。
「この写真、誰だかわかる? 高校時代のわたしの両親」
――――――お母さんとお父さんも、うちの高等部の出身だったんだ?
「そう! 特に母は、高等部の『学院アワード』でトップになって、大学でも、ミス・キャンパスになったんだ」
――――――スゴい! そうだったんだ? 先に話しを聞いていれば、お母さんに高等部のことや三日月祭のことを色々と聞けたのに……。
「やめてよ(笑)母親だって、昔のことをアレコレ聞かれたくないんじゃない?」
――――――でも、瓦木さんが、『学院アワード』の投票にこだわる理由って……?
「そうだね……両親とのつながりを感じたいから、かな……父が亡くなってから、うちの母親は、ひとりでわたしを育ててくれたし……仕事が忙しい分、話し合える時間も少ないから……わたしが、目に見える結果を残すことで、娘にしてくれたことは間違っていないって……感謝を示すことも出来るかな、って考えてるんだ」
少し伏し目がちに答える画面の中のわたしが語り終えると、映像は、また、寿太郎の自室に切り替わった。
「こうして、彼女の話しを聞かせてもらうまで、ぼくは色々と誤解をしていたんだなと、気づく。彼女と親しくなる前は、クラスの中心にいる人間は、軽い話題で盛り上がっているだけの悩みのない連中なんだろうと思っていた。だけど、そうじゃない――――――」
淡々と語る寿太郎の語り口に、わたしだけなく、スクリーンを見守る観客が釘付けになっているのがわかる。
「彼女と接することで、色々な側面があることがわかってきた。彼女は、自分で口に出すほど、健気で奥ゆかしい性格ではないかも知れない。でも、明るく、前向きで、繊細で……なによりも、人を思いやる優しさを持っている。ぼくの所属する映文研のメンバーが、ほとんどの生徒に知られていなかったブレイク・ダンスの実力を披露できたのも、ぼく自身が、みんなに注目してもらえるようになったのも、彼女のひたむきな性格と人脈の広さ、そして、彼女自身が周りの人たちを気遣えるヒトだからだ」
スクリーンを通して伝わる寿太郎の声に、わたしの肩を抱くナミ、制服の袖をつかむリコのチカラが強くなった気がする。
映文研の下級生のみんなは、部長の言葉に同意するように、大きくうなずいていた。
「結局、最初に予定していた『学内やSNSでカリスマ的な人気を誇るクラスメートに密着して、その素顔、本当の姿を暴こう』という企画は、思っていたようには進まなかった。でも、ぼくは、それでも構わないと考えている。瓦木亜矢は、ぼくや映文研のメンバーに、これまで、関わりを持っていなかった多くの人と接することの楽しさを教えてくれた。なにより、ぼくにも、ぼくたちにも、新しい友だちや仲間が増えた。それだけで、十分だ」
スクリーンの中の彼が、そう言い切ると、会場からは拍手が湧き起こった。
「もし、まだ、『学院アワード』の投票を終えていない人がいたら、彼女のそんな魅力にも注目して、投票する生徒を決めてほしい。ぼくが、この映像を通して、みんなに伝えたかったのは、そのことだ――――――。ここまで、見てくれて、ありがとう」
寿太郎が、最後の言葉を語り終え、映像が停止すると、彼を称えるその音は、さらに大きなものになった。