わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜⑫
寿太郎が作成した映像の再生が終わると、ステージや客席に設けられたスピーカーから、
「『学院アワード』の投票締め切りまで、あと五分です。まだ、投票が済んでいない人は、スマートフォンなどで、スクリーンのQRコードを読み込んで投票してください」
というアナウンスが流れた。
三日月祭の生徒間人気投票『学院アワード』は、投票用紙に名前を書き込むアナログな方法とスマホやタブレットを使用してGoogleフォームから投票するデジタル機器を利用したハイブリッド方式で行われる。
三日月祭実行委員会のメンバーによると、開票に時間がかかるアナログ方式の投票は前日に締め切られ、投票締切直後に投票数の算出が可能なデジタル方式の票数を、前日までのアナログ方式合算して発表される。
わたしたちが、中等部に入学した頃には、投票用紙に鉛筆などで記入する生徒も多かったけれど、高等部に入学してからは、スマホの所有している生徒が増えたため、ほとんどが、デジタル方式で投票を行っている。
そのため、締め切り時間ギリギリまで、投票する相手を選ぶことが出来るので、最終日のステージでのパフォーマンスも投票結果の大きな要素になっていて、今年のような接戦が予想される年は、さらに、重要度が増している。
そのことを理解しながら、貴重な自分の出番を自己PRに使わなかったことに後悔はない。
ただ、『学院アワード』の男子部門で、票を伸ばすことが予想されていた寿太郎が、映像を使って、あんなパフォーマンスを見せるとは予想していなかった。
映像を通した彼の語り口に、感情があふれそうになったけれど、リコやナミがすぐそばにいたので、表情を崩さないよう、冷静さを保つのに、とても苦労した。
三日月祭実行委員会の代表が司会を務めるステージでは、各クラスやクラブの演目による集客数ランキングが発表されたあと、いよいよ、『学院アワード』が発表される。
「さあ、本日分の投票の集計も終了し、いよいよ、本年度の『学院アワード』の発表です! 今年は、男子・女子ともに、大接戦になりました! 関成学院高等部、今年度の『学院アワード』は――――――瓦木亜矢さんと高須不知火さんです! ふたりとも、もう一度、ステージにどうぞ!」
アナウンスが聞こえた瞬間、
「おめでとう〜亜矢!」
と、リコが抱きついてきた。
一方、ナミは、拍手をしながらも、
「おめでとう……けど、深津のことは……残念だったね」
と、微苦笑を浮かべた複雑な表情で、声をかけてきた。
「ふたりとも、ありがとう……」
わたしも、ナミの表情と同じくらい複雑な心情で、友人たちの言葉に応えてから、舞台袖に戻り、ステージに向かう。
舞台袖とは反対の位置にある音響ブースの近くからは、慌てて走ってくる映文研の副部長の姿が見えた。
彼の到着を待って、わたしは、ふたたび舞台に上がる。
「それでは、『学院アワード』男子の部門でトップに輝いた高須不知火さんに一言いただきたいと思います」
司会の言葉にうなずきながら、マイクを受け取った副部長は、高揚した表情ながらも、落ち着いた声で語り始めた。
「あ〜、まさかの結果に俺自身が一番おどろいていたりするんだが……今日のこの結果は、すべて俺ひとりによって達成された功績…………というわけではなく、一緒にブレイキンを披露した映文研のメンバーと、リハーサルの場に誘ってくれたクラスメートのおかげだと思っている。支持してくれたみんなと、支えてくれたメンバーに感謝を込めて……ありがとう!」
彼のスピーチは短いながらも、周りの人たちに対する想いにあふれた、あたたかいモノだった。
ステージ前の観客席からは、彼の活躍をたたえる拍手が起こっている。
その歓声に応えながら、高須くんは、
「俺たちを応援してくれた御礼に、このあと、ちょっとしたサプライズを用意しているから、楽しみにしておいてくれ!」
と宣言し、マイクを司会者に返す。
「続いて、『学院アワード』女子の部門でトップに輝いた瓦木亜矢さん、一言お願いします」
司会のアナウンスにうながされて、わたしは、マイクを受け取った。
「高校生活最後の三日月祭で、みんなに『学院アワード』に投票してもらって感謝しています。先に、高須くんに言われちゃったけど、自分の結果も、わたし自身のチカラではなく、わたしを支えてくれた人達のおかげだと思っています。みんな、ありがとう」
わたしが、短い言葉で語り終えると、高須くんのときと同じように、客席から、あたたかい拍手が送られる。
ふたりで一礼して、ステージから降り、友人たちのところに戻ると、三日月祭が始まってから、これまで姿を見せなかった、クラスメートが、わたしたちの前にあらわれた。
「おめでとう、亜矢。みんなにも、亜矢の魅力が伝わって良かった……オレの動画も少しは役に立てたかな?」
柔らかな笑みを浮かべながら、寿太郎は語りかけてくる。
そんな態度の彼には、言いたいことがたくさんあったけど、わたしよりも先に反応したのは、ナミだった。
「執事喫茶の隠れた主力として期待してたのに、クラスには顔を出さないで、ドコでサボってたの?」
「それについては、本当に申し訳ない……埋め合わせできることがあれば、ナンでもさせてもらう……」
寿太郎が、そう答えると、ナミはニヤニヤと笑いながら、
「こんなこと言ってるけど、どうするリコ?」
と、わたしのもうひとりの友人に話しを振る。
すると、リコも澄ました表情で、
「そうだね、深津くんが、そう言ってくれるなら、すぐに実行してもらおうか?」
そう言って、寿太郎の背中を押して、校舎の方に移動しようとする。
「えっ!? なんだ、なんだ?」
寿太郎が困惑しながら声を上げると、
「ゴメンね、亜矢! ちょっと、寿太郎くんを借りていくね」
リコは珍しく、有無を言わせない、といった感じで、ナミと一緒に寿太郎を連れて、わたしたちの教室の入っている校舎に消えていった。
「『学院アワード』の投票締め切りまで、あと五分です。まだ、投票が済んでいない人は、スマートフォンなどで、スクリーンのQRコードを読み込んで投票してください」
というアナウンスが流れた。
三日月祭の生徒間人気投票『学院アワード』は、投票用紙に名前を書き込むアナログな方法とスマホやタブレットを使用してGoogleフォームから投票するデジタル機器を利用したハイブリッド方式で行われる。
三日月祭実行委員会のメンバーによると、開票に時間がかかるアナログ方式の投票は前日に締め切られ、投票締切直後に投票数の算出が可能なデジタル方式の票数を、前日までのアナログ方式合算して発表される。
わたしたちが、中等部に入学した頃には、投票用紙に鉛筆などで記入する生徒も多かったけれど、高等部に入学してからは、スマホの所有している生徒が増えたため、ほとんどが、デジタル方式で投票を行っている。
そのため、締め切り時間ギリギリまで、投票する相手を選ぶことが出来るので、最終日のステージでのパフォーマンスも投票結果の大きな要素になっていて、今年のような接戦が予想される年は、さらに、重要度が増している。
そのことを理解しながら、貴重な自分の出番を自己PRに使わなかったことに後悔はない。
ただ、『学院アワード』の男子部門で、票を伸ばすことが予想されていた寿太郎が、映像を使って、あんなパフォーマンスを見せるとは予想していなかった。
映像を通した彼の語り口に、感情があふれそうになったけれど、リコやナミがすぐそばにいたので、表情を崩さないよう、冷静さを保つのに、とても苦労した。
三日月祭実行委員会の代表が司会を務めるステージでは、各クラスやクラブの演目による集客数ランキングが発表されたあと、いよいよ、『学院アワード』が発表される。
「さあ、本日分の投票の集計も終了し、いよいよ、本年度の『学院アワード』の発表です! 今年は、男子・女子ともに、大接戦になりました! 関成学院高等部、今年度の『学院アワード』は――――――瓦木亜矢さんと高須不知火さんです! ふたりとも、もう一度、ステージにどうぞ!」
アナウンスが聞こえた瞬間、
「おめでとう〜亜矢!」
と、リコが抱きついてきた。
一方、ナミは、拍手をしながらも、
「おめでとう……けど、深津のことは……残念だったね」
と、微苦笑を浮かべた複雑な表情で、声をかけてきた。
「ふたりとも、ありがとう……」
わたしも、ナミの表情と同じくらい複雑な心情で、友人たちの言葉に応えてから、舞台袖に戻り、ステージに向かう。
舞台袖とは反対の位置にある音響ブースの近くからは、慌てて走ってくる映文研の副部長の姿が見えた。
彼の到着を待って、わたしは、ふたたび舞台に上がる。
「それでは、『学院アワード』男子の部門でトップに輝いた高須不知火さんに一言いただきたいと思います」
司会の言葉にうなずきながら、マイクを受け取った副部長は、高揚した表情ながらも、落ち着いた声で語り始めた。
「あ〜、まさかの結果に俺自身が一番おどろいていたりするんだが……今日のこの結果は、すべて俺ひとりによって達成された功績…………というわけではなく、一緒にブレイキンを披露した映文研のメンバーと、リハーサルの場に誘ってくれたクラスメートのおかげだと思っている。支持してくれたみんなと、支えてくれたメンバーに感謝を込めて……ありがとう!」
彼のスピーチは短いながらも、周りの人たちに対する想いにあふれた、あたたかいモノだった。
ステージ前の観客席からは、彼の活躍をたたえる拍手が起こっている。
その歓声に応えながら、高須くんは、
「俺たちを応援してくれた御礼に、このあと、ちょっとしたサプライズを用意しているから、楽しみにしておいてくれ!」
と宣言し、マイクを司会者に返す。
「続いて、『学院アワード』女子の部門でトップに輝いた瓦木亜矢さん、一言お願いします」
司会のアナウンスにうながされて、わたしは、マイクを受け取った。
「高校生活最後の三日月祭で、みんなに『学院アワード』に投票してもらって感謝しています。先に、高須くんに言われちゃったけど、自分の結果も、わたし自身のチカラではなく、わたしを支えてくれた人達のおかげだと思っています。みんな、ありがとう」
わたしが、短い言葉で語り終えると、高須くんのときと同じように、客席から、あたたかい拍手が送られる。
ふたりで一礼して、ステージから降り、友人たちのところに戻ると、三日月祭が始まってから、これまで姿を見せなかった、クラスメートが、わたしたちの前にあらわれた。
「おめでとう、亜矢。みんなにも、亜矢の魅力が伝わって良かった……オレの動画も少しは役に立てたかな?」
柔らかな笑みを浮かべながら、寿太郎は語りかけてくる。
そんな態度の彼には、言いたいことがたくさんあったけど、わたしよりも先に反応したのは、ナミだった。
「執事喫茶の隠れた主力として期待してたのに、クラスには顔を出さないで、ドコでサボってたの?」
「それについては、本当に申し訳ない……埋め合わせできることがあれば、ナンでもさせてもらう……」
寿太郎が、そう答えると、ナミはニヤニヤと笑いながら、
「こんなこと言ってるけど、どうするリコ?」
と、わたしのもうひとりの友人に話しを振る。
すると、リコも澄ました表情で、
「そうだね、深津くんが、そう言ってくれるなら、すぐに実行してもらおうか?」
そう言って、寿太郎の背中を押して、校舎の方に移動しようとする。
「えっ!? なんだ、なんだ?」
寿太郎が困惑しながら声を上げると、
「ゴメンね、亜矢! ちょっと、寿太郎くんを借りていくね」
リコは珍しく、有無を言わせない、といった感じで、ナミと一緒に寿太郎を連れて、わたしたちの教室の入っている校舎に消えていった。