わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
エピローグ〜円環の理(えんかんのことわり)に導かれた終章〜
2月11日(土)
円型のライトには、ミラーボールが付いた魔法の杖が装着されている。
杖を構えた少女(?)は、口上を打つ。
「愛と勇気の名のもとに! 魔法少女マジカル☆スイーピー、起動完了!」
「マジカル・ステッキ、バブリー・ワンドで、あなたのハートをヒーリング!」
真冬の寒風が吹きすさぶ中、ピンクの色を基調とした丈の短いワンピースをアレンジした衣装をまとった彼女が、気温を感じさせない表情でカメラに向かって微笑むと、バブル・ワンド(ユ◯バーサル・スタジオ・ジャパンにて三八◯◯円で購入)と呼ばれる魔法のステッキから、無数のシャボン玉が噴出された。
「カット! はい、オッケー! じゃあ、次のシーンに行ってみよう!」
監督を務めるオレが、撮影カットの声をかけると、隣でスマホを縦向きに構えていた樋ノ口さんからも同調するように声が上がった。
「こっちも、大丈夫! ちゃんと撮れてると思うよ!」
声をかけられた魔法少女は、撮影監督の声を気にするようすもなく、友人に駆け寄り、スマホを確認する。
「ありがとう、リコ! この動画、あとで《Chik Tak》にアップするね! ナミ、これで罰ゲームもクリアってことで良い?」
亜矢の問いかけに、もうひとりの友人、名塩さんが、
「ハイハイ……」
と苦笑しながら、うなずく。
高等部の卒業式を二週間後に控えたこの時期に、文化祭の生徒投票『学院アワード』でトップ投票を獲得した瓦木亜矢が、なぜ、魔法少女の衣装を身にまとって動画の撮影をしているかと言えば――――――。
「『学院アワード』で深津寿太郎を投票数トップにできるか?」
という賭けに敗れた亜矢が、その罰ゲームである
「卒業までに、『#鼻毛女子』より恥ずかしい動画をSNSにアップする」
を実行しているためだ。
さらに、夏休み中に企画されたものの、演者不在でお蔵入りになっていた『魔法少女マジカル☆スイーピー』の撮影を行うという一石二鳥のプランに、映文研も加わることになった。
個人的には、オレ自身の渾身の自信作が、罰ゲーム扱いされるのは、はなはだ不本意だったし、なにより、主人公である魔法少女の『マジカル☆スイーピー』の役を高校卒業間近の同級生に演じさせるのは、色々な意味で、厳しいモノがあると考えていたのだが…………。
「あ〜、魔法少女か〜、ちょっと、恥ずかしいけど、でも、罰ゲームだしな〜。それに、寿太郎が、わたしの魔法少女コスをどうしても見たいって言うなら、考えてみようかな〜」
どう見てもヤル気に満ちあふれている亜矢の見え見えのオーラを前にしては、三日月祭以降、好感度が急上昇した映文研のイメージを利用して、
「中等部もしくは高等部の後輩女子に出演を依頼する」
という、オレの目論見は、はかなく潰えてしまった。
正直なところ、自分が構想当初から想定していた『マジカル☆スイーピー』とは、かなりイメージがかけ離れたものにしまったのだが――――――。
「シリーズ二十作品目を迎える日曜朝の変身ヒロインも、十二歳の少年や十八歳の成人女性が変身するッス! ぼくたちも、多様性の時代に順応しないと……」
と語る、未来の映文研を背負う後輩たちの言葉に反論の余地はなく、
「魔法少女=十代前半の少女」
という自分自身の価値観を強制アップデートすることにした。
次の撮影の準備に入る間、亜矢は友人たちとともに、《ミンスタ》のライブ配信を始めている。
そんな彼女のようすを眺めながら、オレも自分のスマホで、彼女の配信を確認することにした。
「みんな、おはよう! 瓦木亜矢です」
「わたしを見捨てずにフォローしてくれているみんな、ありがとう! まだまだ寒い季節だけど、今日は朝から、撮影に来ています!」
「高等部卒業前の最後の動画は、な・ん・と、魔法少女の実写ドラマ!……あっ、スゴイ! もう、こんなにコメントが来ちゃった」
画面の向こうへのあいさつを終えると、スマホのディスプレイには、次々と視聴者からのコメントや質問が表示される。
little_twin_stars1224:おはよう! あやち、その衣装とっても可愛い。
golden_pudding0416:この衣装って、亜矢ちゃんの自作? どうやって作ったの?
bad_penguin0401:あやち、ドラマに出演するの!?
「それじゃ、さっそく、答えて行くね! まずは――――――golden_pudding0416さんから! いつもありがとう! 『この衣装って、亜矢ちゃんの自作?』 そうだよ! 『どうやって作ったの?』って、やっぱり、気になる?」
視聴者のコメントに反応しながら、彼女は流れるように質問に答えていく。
学内での許可申請を行ってのものとは言え、屋外で、こうしたパフォーマンスができることに、あらためて感心する。
「実は、この衣装、わたしとリコとナミの共同制作なんだ! 制作中の動画を撮影してるから、また、アップさせてもらうね!」
そう言ったあと、彼女の配信画面には
#creastone
#コスチューム
という商品のハッシュタグを付けられ、コメント欄が活発化していく。
hood_rabbit0118:衣装制作の動画、たのしみ!
pochako_puppy0323:亜矢ちゃんの魔法少女ドラマ、すっごく面白そう!
期待通りのコメントが集まったのだろう、亜矢は、ライブ配信の締めに入るようだ。
ところで、わたしは配信の締めに入ることにした。
「――――――と、いうことで、午前中の配信は、ここまで! 午後には、《Chik Tak》でショート動画をアップするから楽しみにしててね! それじゃ、バイバイ!」
karinchan_yamayama:《Chik Tak》アップされたら、すぐに見るからね!
(今日も亜矢が元気でなによりだ……)
自分にはもったいないと感じるくらい、前向きな彼女のようすを眺めながら、次のシーンの準備が整ったことを確認したオレは、亜矢と映文研のメンバーに声をかけ、撮影を継続した。
※
「古都乃さん、どうでした? 午前中の配信内容は?」
「あやチャン、お疲れさま。今日も、しっかり宣伝してくれてありがとう」
昼下がりのランチの時刻――――――。
行きつけのイタリアンの店で、日替わりパスタを口に運びながら、スマホ越しに通話相手の亜矢の問いに、光石古都乃は、ねぎらいの言葉で応じた。
前年の秋、《ミンスタグラム》のライブ配信中に、交際していた相手に手作りのキャンディーを投げつけ、変顔を披露するという大失態を犯し、一時は、インフルエンサーとしての再起は不可能と思われた瓦木亜矢だったが……。
映像文化研究会が、高校生を対象にした映像作品コンテストである『映像甲子園』に出品した『三軍男子の改造計画』が話題を呼び、冴えない雰囲気だった同級生男子を短期間で見違えるように変身させた亜矢の手腕にも注目が集まって、八十万人を割りかけていた彼女のSNSアカウントのフォロワーは、再び一◯◯万人の大台目前に迫っている。
「また、古都乃さんのお役に立つことができて、嬉しいです」
電話口で声を弾ませる亜矢に対し、企業担当者は、柔らかな口調で応じる。
「亜矢ちゃんが、アニメやゲームにも詳しいとは思ってなかったわ。おかげで、私たちの新しい部署も売り上げ好調よ」
「はい! 最近、仲良くなった友だちが、二次元の方面に詳しいので助かってます」
自分よりも、周囲の友人たちの功績を強調する点に、十代のインフルエンサーの変化を感じながら、古都乃は、
「亜矢ちゃん、以前とは話しているときの印象が変わったわね? それも、新しい彼氏の影響?」
と、冗談交じりに問いかける。
「仕事に私情は挟まない」
そのことをモットーにしている彼女だが、ときに、ビジネスの相手であるインフルエンサーたちに、こうしたネタを振るのも、古都乃が密かに楽しみにしていることでもあった。
「か、彼の影響ですか……? それは、ちょっと、わからないです……」
どんなことでも、朗らかに明快に返答する亜矢にしては珍しく、言葉に詰まっているようすを微笑ましく感じながら、古都乃は言葉を続ける。
「そうそう、亜矢ちゃんの魔法少女役、けっこう可愛いかったわよ!」
「あ、ありがとうございます! ちょっと、恥ずかしかったんですけど……彼が、どうしても、この衣装を着てほしい、って言うもので……」
「あらあら、まだまだ、真冬なのに、お熱いじゃないの? 『あなたのハートをヒーリング』だっけ? あの決めゼリフも彼が考えたの?」
「はい! お話しの台本は、かなり前に完成してたらしいです」
「そうだったの。わたしの頃は、『月に変わってお仕置よ!』と言ってたモノだけど……相手を癒やす方が、いまの時代にあっているのかもね……」
「そうですね! 良ければ、『マジカル☆スイーピー』の本編も見てくれると嬉しいです」
「そうね、亜矢ちゃん演じるスイーピーの活躍、楽しみにしているわ。それじゃ、また新しい案件が出てきたら、連絡させてもらうわね」
「はい、春からも、引き続き、よろしくお願いします」
亜矢の明るい声を聞き、古都乃は、終話ボタンをタップする。
彼女の声を聞く限り、いまは、亜矢の対人関係や恋愛の悩みなどを聞く必要はないようだ。
担当するインフルエンサーのプライベートが、良い方向に向かっていることに安堵しつつ、古都乃は、亜矢がメンタル面で成長していることを嬉しく感じていた。
仕事に私情を挟まない――――――。
とは言うものの、古都乃には、インフルエンサーとしての窮地を自分のチカラで乗り越えた亜矢を、これからも応援したくなる、という気持ちもあった。
(亜矢ちゃんが、大学生や社会人の新生活デビューにアドバイスしてくれるなら……相変わらず、中高生から支持されている四葉ちゃんと、ウチの会社の二枚看板になってくれそうね)
と、明るい展望を抱きながら、古都乃はオフィスに戻ることにした。
円型のライトには、ミラーボールが付いた魔法の杖が装着されている。
杖を構えた少女(?)は、口上を打つ。
「愛と勇気の名のもとに! 魔法少女マジカル☆スイーピー、起動完了!」
「マジカル・ステッキ、バブリー・ワンドで、あなたのハートをヒーリング!」
真冬の寒風が吹きすさぶ中、ピンクの色を基調とした丈の短いワンピースをアレンジした衣装をまとった彼女が、気温を感じさせない表情でカメラに向かって微笑むと、バブル・ワンド(ユ◯バーサル・スタジオ・ジャパンにて三八◯◯円で購入)と呼ばれる魔法のステッキから、無数のシャボン玉が噴出された。
「カット! はい、オッケー! じゃあ、次のシーンに行ってみよう!」
監督を務めるオレが、撮影カットの声をかけると、隣でスマホを縦向きに構えていた樋ノ口さんからも同調するように声が上がった。
「こっちも、大丈夫! ちゃんと撮れてると思うよ!」
声をかけられた魔法少女は、撮影監督の声を気にするようすもなく、友人に駆け寄り、スマホを確認する。
「ありがとう、リコ! この動画、あとで《Chik Tak》にアップするね! ナミ、これで罰ゲームもクリアってことで良い?」
亜矢の問いかけに、もうひとりの友人、名塩さんが、
「ハイハイ……」
と苦笑しながら、うなずく。
高等部の卒業式を二週間後に控えたこの時期に、文化祭の生徒投票『学院アワード』でトップ投票を獲得した瓦木亜矢が、なぜ、魔法少女の衣装を身にまとって動画の撮影をしているかと言えば――――――。
「『学院アワード』で深津寿太郎を投票数トップにできるか?」
という賭けに敗れた亜矢が、その罰ゲームである
「卒業までに、『#鼻毛女子』より恥ずかしい動画をSNSにアップする」
を実行しているためだ。
さらに、夏休み中に企画されたものの、演者不在でお蔵入りになっていた『魔法少女マジカル☆スイーピー』の撮影を行うという一石二鳥のプランに、映文研も加わることになった。
個人的には、オレ自身の渾身の自信作が、罰ゲーム扱いされるのは、はなはだ不本意だったし、なにより、主人公である魔法少女の『マジカル☆スイーピー』の役を高校卒業間近の同級生に演じさせるのは、色々な意味で、厳しいモノがあると考えていたのだが…………。
「あ〜、魔法少女か〜、ちょっと、恥ずかしいけど、でも、罰ゲームだしな〜。それに、寿太郎が、わたしの魔法少女コスをどうしても見たいって言うなら、考えてみようかな〜」
どう見てもヤル気に満ちあふれている亜矢の見え見えのオーラを前にしては、三日月祭以降、好感度が急上昇した映文研のイメージを利用して、
「中等部もしくは高等部の後輩女子に出演を依頼する」
という、オレの目論見は、はかなく潰えてしまった。
正直なところ、自分が構想当初から想定していた『マジカル☆スイーピー』とは、かなりイメージがかけ離れたものにしまったのだが――――――。
「シリーズ二十作品目を迎える日曜朝の変身ヒロインも、十二歳の少年や十八歳の成人女性が変身するッス! ぼくたちも、多様性の時代に順応しないと……」
と語る、未来の映文研を背負う後輩たちの言葉に反論の余地はなく、
「魔法少女=十代前半の少女」
という自分自身の価値観を強制アップデートすることにした。
次の撮影の準備に入る間、亜矢は友人たちとともに、《ミンスタ》のライブ配信を始めている。
そんな彼女のようすを眺めながら、オレも自分のスマホで、彼女の配信を確認することにした。
「みんな、おはよう! 瓦木亜矢です」
「わたしを見捨てずにフォローしてくれているみんな、ありがとう! まだまだ寒い季節だけど、今日は朝から、撮影に来ています!」
「高等部卒業前の最後の動画は、な・ん・と、魔法少女の実写ドラマ!……あっ、スゴイ! もう、こんなにコメントが来ちゃった」
画面の向こうへのあいさつを終えると、スマホのディスプレイには、次々と視聴者からのコメントや質問が表示される。
little_twin_stars1224:おはよう! あやち、その衣装とっても可愛い。
golden_pudding0416:この衣装って、亜矢ちゃんの自作? どうやって作ったの?
bad_penguin0401:あやち、ドラマに出演するの!?
「それじゃ、さっそく、答えて行くね! まずは――――――golden_pudding0416さんから! いつもありがとう! 『この衣装って、亜矢ちゃんの自作?』 そうだよ! 『どうやって作ったの?』って、やっぱり、気になる?」
視聴者のコメントに反応しながら、彼女は流れるように質問に答えていく。
学内での許可申請を行ってのものとは言え、屋外で、こうしたパフォーマンスができることに、あらためて感心する。
「実は、この衣装、わたしとリコとナミの共同制作なんだ! 制作中の動画を撮影してるから、また、アップさせてもらうね!」
そう言ったあと、彼女の配信画面には
#creastone
#コスチューム
という商品のハッシュタグを付けられ、コメント欄が活発化していく。
hood_rabbit0118:衣装制作の動画、たのしみ!
pochako_puppy0323:亜矢ちゃんの魔法少女ドラマ、すっごく面白そう!
期待通りのコメントが集まったのだろう、亜矢は、ライブ配信の締めに入るようだ。
ところで、わたしは配信の締めに入ることにした。
「――――――と、いうことで、午前中の配信は、ここまで! 午後には、《Chik Tak》でショート動画をアップするから楽しみにしててね! それじゃ、バイバイ!」
karinchan_yamayama:《Chik Tak》アップされたら、すぐに見るからね!
(今日も亜矢が元気でなによりだ……)
自分にはもったいないと感じるくらい、前向きな彼女のようすを眺めながら、次のシーンの準備が整ったことを確認したオレは、亜矢と映文研のメンバーに声をかけ、撮影を継続した。
※
「古都乃さん、どうでした? 午前中の配信内容は?」
「あやチャン、お疲れさま。今日も、しっかり宣伝してくれてありがとう」
昼下がりのランチの時刻――――――。
行きつけのイタリアンの店で、日替わりパスタを口に運びながら、スマホ越しに通話相手の亜矢の問いに、光石古都乃は、ねぎらいの言葉で応じた。
前年の秋、《ミンスタグラム》のライブ配信中に、交際していた相手に手作りのキャンディーを投げつけ、変顔を披露するという大失態を犯し、一時は、インフルエンサーとしての再起は不可能と思われた瓦木亜矢だったが……。
映像文化研究会が、高校生を対象にした映像作品コンテストである『映像甲子園』に出品した『三軍男子の改造計画』が話題を呼び、冴えない雰囲気だった同級生男子を短期間で見違えるように変身させた亜矢の手腕にも注目が集まって、八十万人を割りかけていた彼女のSNSアカウントのフォロワーは、再び一◯◯万人の大台目前に迫っている。
「また、古都乃さんのお役に立つことができて、嬉しいです」
電話口で声を弾ませる亜矢に対し、企業担当者は、柔らかな口調で応じる。
「亜矢ちゃんが、アニメやゲームにも詳しいとは思ってなかったわ。おかげで、私たちの新しい部署も売り上げ好調よ」
「はい! 最近、仲良くなった友だちが、二次元の方面に詳しいので助かってます」
自分よりも、周囲の友人たちの功績を強調する点に、十代のインフルエンサーの変化を感じながら、古都乃は、
「亜矢ちゃん、以前とは話しているときの印象が変わったわね? それも、新しい彼氏の影響?」
と、冗談交じりに問いかける。
「仕事に私情は挟まない」
そのことをモットーにしている彼女だが、ときに、ビジネスの相手であるインフルエンサーたちに、こうしたネタを振るのも、古都乃が密かに楽しみにしていることでもあった。
「か、彼の影響ですか……? それは、ちょっと、わからないです……」
どんなことでも、朗らかに明快に返答する亜矢にしては珍しく、言葉に詰まっているようすを微笑ましく感じながら、古都乃は言葉を続ける。
「そうそう、亜矢ちゃんの魔法少女役、けっこう可愛いかったわよ!」
「あ、ありがとうございます! ちょっと、恥ずかしかったんですけど……彼が、どうしても、この衣装を着てほしい、って言うもので……」
「あらあら、まだまだ、真冬なのに、お熱いじゃないの? 『あなたのハートをヒーリング』だっけ? あの決めゼリフも彼が考えたの?」
「はい! お話しの台本は、かなり前に完成してたらしいです」
「そうだったの。わたしの頃は、『月に変わってお仕置よ!』と言ってたモノだけど……相手を癒やす方が、いまの時代にあっているのかもね……」
「そうですね! 良ければ、『マジカル☆スイーピー』の本編も見てくれると嬉しいです」
「そうね、亜矢ちゃん演じるスイーピーの活躍、楽しみにしているわ。それじゃ、また新しい案件が出てきたら、連絡させてもらうわね」
「はい、春からも、引き続き、よろしくお願いします」
亜矢の明るい声を聞き、古都乃は、終話ボタンをタップする。
彼女の声を聞く限り、いまは、亜矢の対人関係や恋愛の悩みなどを聞く必要はないようだ。
担当するインフルエンサーのプライベートが、良い方向に向かっていることに安堵しつつ、古都乃は、亜矢がメンタル面で成長していることを嬉しく感じていた。
仕事に私情を挟まない――――――。
とは言うものの、古都乃には、インフルエンサーとしての窮地を自分のチカラで乗り越えた亜矢を、これからも応援したくなる、という気持ちもあった。
(亜矢ちゃんが、大学生や社会人の新生活デビューにアドバイスしてくれるなら……相変わらず、中高生から支持されている四葉ちゃんと、ウチの会社の二枚看板になってくれそうね)
と、明るい展望を抱きながら、古都乃はオフィスに戻ることにした。