わたしのプリンスさま〜冴えない男子の育て方〜
第1章〜元カレを見返すためにクラスの三軍男子をスパダリに育てることにします〜⑧
「え〜っと……『ケント、ちょうだいとキス』? ナニ? 山◯賢人と、何か関係あんの?」
「いや、『キングダム』の時代とは、関係ないと思うんだけど……」
学内の人間関係から、最新のトレンド情報に詳しい反面、教養面に関しては、天然ぶりを発揮するナミの発言に対して、
(そういえば、『捲土重来』って、いつ出来た言葉だっけ? 今度、検索してみよう)
と、頭の片隅に浮かんだ、これまでの会話に関係のない余計な思考を振り払いつつ、あらためて、自分の考えを詳しく説明することに注意を傾ける。
「それより、男子のトータル・プロデュースするのって、需要があると思うんだ!」
わたしの発言に、
(どういうこと?)
と、まだ少し戸惑った表情を浮かべるリコに対して、ナミは、
「ふ〜ん……で、そのココロは?」
と、挑発的な表情で、ストレートに疑問をぶつけてくる。
もちろん、わたしは、懐疑的な友人を説得できるだけの答えを用意していた。
「コスメやヘアスタイル、服装でイメチェンしたいとき、ふたりは、どんな動画を参考にしてる?」
「私は、美容系インフルエンサーのnanamiちゃんかな〜? スッピンから、お化粧の方法を教えてくれるから、とっても、参考になるんだ!」
「ウチは、同性の美容系情報は、もう見尽くしたから、いまは、男子の美容系動画を見てるわ。イケメンが多くて、けっこう楽しいよ?」
狙い通りの答えを返してきたふたりに、心の中で思わずニヤリとしながら、
「リコ、nanamiちゃんの動画、イイよね! 大学デビューのときには、わたしも参考にしたいくらい! ナミも、男子に目を向けるとは、さすが情報通だわ」
そう言って、友人たちを持ち上げつつ、
「でもね、このジャンルは、ビジネスの盲点になってる部分があるんだ」
と、付け加えた。
「ん!? どゆこと?」
再び、ナミが疑問を投げかける。
「nanamiちゃんの美容系動画は、当然、わたしたち同性に圧倒的に支持されるんだけど……ナミの見ている男性インフルエンサーの視聴者は、どんなヒトたちだと思う?」
友人の質問に、さらに疑問形のカタチで返答すると、ナミは、当たり前のことを聞くな、と言わんばかりに、答えを返す。
「そりゃ、オトコが商品や美容方法をアピールしてるんだから、動画を見てるのは、オトコでしょ?」
彼女の返答に、(計画通り――――――)と、ほくそ笑んだわたしは、チッチッチッ、と人差し指を軽く振りながら、
「ところが、違うんだな〜、コレが……」
と、澄まし顔で答える。
わたしの返答に、
「えっ!? いや、じゃあ、誰が見てんの?」
と、当然の質問を返すナミに対して、振っていた指をそのまま彼女に向けた。
「えっ!? ウチ?」
突然、指をさされて驚いた表情を見せる友人に対して、わたしは、うなずきながら説明を続ける。
「そう! ナミみたいなイケメン好きの女子! 実は、男性の美容系動画って、視聴者のほとんどが、女子なんだって……これは、わたしに案件を紹介してくれる古都乃さんが、いつも、言ってることだから、間違いない! 『あ〜、誰でも良いから、男性向けの商品を売ってくれるインフルエンサーを紹介してほしいわ〜』ってね」
わたしの解説で、ようやく理解を得たらしいリコが聞き返してきた。
「つまり……イケてない男子を……亜矢がイケメンに変身させて、それをみんなに見てもらう、ってこと?」
彼女の質問に、ニッコリしながらうなずくが、一方のナミは、まだ懐疑的なようすで、
「そんなに上手く行くもんかな〜? だいたい、鳴尾はるかだって、服装はダサかったけど、もともと、顔の方はイケてた訳じゃん? 冴えない系男子をそこまで磨くことなんて、ホントにできんの?」
と、疑問を呈してくる。友人の能力を見くびる彼女に対し、
「わたしの腕にかかれば、余裕でしょ?」
自信たっぷりに答える。
「そこまで言うなら、ウチと賭けない? アヤがプロデュースする男子が、十一月の文化祭で人気トップになれるかどうか?」
「三日月祭のコンテストね? イイじゃない!? 受けて立つ!」
友人の挑発に乗ったわたしに対して、リコが、心配するように聞いてきた。
「ちょっと、亜矢、ホントに大丈夫なの? 三日月祭まで、あと、一ヶ月ちょっとしかないんだよ?」
慎重な性格のリコと、この状況を楽しむかのような笑みを浮かべているナミに対して、わたしは、返答する。
「そうね! 時間は短いから、さっそく、今日の放課後から、プロデュースする相手を探しに行きましょう? ふたりとも、手伝ってくれる?」
それぞれ、異なった表情でうなずくふたりのようすに満足しながら、わたしは、放課後のスカウト活動に思いを馳せる。
すると、ナミが、ホッとしたような表情と口ぶりで、こんなことを言ってきた。
「でも、ホント、安心したわ……他の学校でも、失恋動画が流出したり、学内イベントのライブ配信中に告白に失敗した生徒がいるって、友達に聞いたことがあったからさぁ~」
苦笑いしながら語る友人に、わたしは、
「ナニソレ? 詳しく!」
と、話しの続きをうながす。
わたしの振りに、すぐに応じたナミは、詳細を語りだした。
「市芦で、生徒会長とスイ部の副部長をやってる友達のミナコに教えてもらったんだけどさ〜。二年の男子が、春休みに失恋したことを《ミンスタ》のストーリーズに流しちゃって、そのあと、五月のオープン・スクールで別の女子に告白をしてフラれた時のようすがライブ配信されたらしいんだぁ。二ヶ月も経ってないのに、二人にフラれた上に、その動画がネットに上がってるって、マジ、ウケるよね〜」
ケラケラと笑いながら語るナミ。
彼女の言う「市芦」とは、市立芦宮高校のことで、公立高校ながら、わたしたちの住む地域では、トップの大学進学率を成績上位校だ。
基本的に内部進学する生徒が多い大学付属のわたしたちの高等部と違って、進学校ゆえの大学受験のプレッシャーもあるだろうに、良く、そんなイベントにチカラを入れられるものだ……と、関心しつつ、二ヶ月たらずの期間に、別々のコに告白するなんていう暴挙を行う男子なんて、女子の立場として
(フラれて当然だ、ざまぁみろ!)
と感じるが、そんな感情は、少しも顔に出さず、同情したふりをする。
「そうなんだ……その男の子、かわいそうだね……」
「そうそう! 恋愛関係のやらかし動画が二回もネット上に流れた男子もいるんだから、『アヤも気にすることないよ』って、励ましてあげようと思ってたんだけど……思ったより元気で良かったよ……」
そう言いながら、ほがらかに笑う友人に、
「ナミ、それ、フォローになってないから……」
と、目を細めながらツッコミを入れると、いつものわたしたちの会話の雰囲気に戻りつつあることを安心したのか、リコは苦笑しながら、友人を諭す。
「だから、言ったじゃん……奈美、それは、励ましにならないって……」
ただ、彼女は、そのあと、続けて気になることを口にした。
「それより、その五月のライブ配信動画で告白されたのって、白草四葉ちゃんだよね! たしか、今年の春に、市芦に転校してきたらしいよ」
――――――白草四葉。
同世代のカリスマとして、多くのメディアに注目されている彼女と同じように、古都乃さんから、色々な案件を紹介してもらっている瓦木亜矢の立場からすると、それは意識しないわけにはいかない名前だった。
「いや、『キングダム』の時代とは、関係ないと思うんだけど……」
学内の人間関係から、最新のトレンド情報に詳しい反面、教養面に関しては、天然ぶりを発揮するナミの発言に対して、
(そういえば、『捲土重来』って、いつ出来た言葉だっけ? 今度、検索してみよう)
と、頭の片隅に浮かんだ、これまでの会話に関係のない余計な思考を振り払いつつ、あらためて、自分の考えを詳しく説明することに注意を傾ける。
「それより、男子のトータル・プロデュースするのって、需要があると思うんだ!」
わたしの発言に、
(どういうこと?)
と、まだ少し戸惑った表情を浮かべるリコに対して、ナミは、
「ふ〜ん……で、そのココロは?」
と、挑発的な表情で、ストレートに疑問をぶつけてくる。
もちろん、わたしは、懐疑的な友人を説得できるだけの答えを用意していた。
「コスメやヘアスタイル、服装でイメチェンしたいとき、ふたりは、どんな動画を参考にしてる?」
「私は、美容系インフルエンサーのnanamiちゃんかな〜? スッピンから、お化粧の方法を教えてくれるから、とっても、参考になるんだ!」
「ウチは、同性の美容系情報は、もう見尽くしたから、いまは、男子の美容系動画を見てるわ。イケメンが多くて、けっこう楽しいよ?」
狙い通りの答えを返してきたふたりに、心の中で思わずニヤリとしながら、
「リコ、nanamiちゃんの動画、イイよね! 大学デビューのときには、わたしも参考にしたいくらい! ナミも、男子に目を向けるとは、さすが情報通だわ」
そう言って、友人たちを持ち上げつつ、
「でもね、このジャンルは、ビジネスの盲点になってる部分があるんだ」
と、付け加えた。
「ん!? どゆこと?」
再び、ナミが疑問を投げかける。
「nanamiちゃんの美容系動画は、当然、わたしたち同性に圧倒的に支持されるんだけど……ナミの見ている男性インフルエンサーの視聴者は、どんなヒトたちだと思う?」
友人の質問に、さらに疑問形のカタチで返答すると、ナミは、当たり前のことを聞くな、と言わんばかりに、答えを返す。
「そりゃ、オトコが商品や美容方法をアピールしてるんだから、動画を見てるのは、オトコでしょ?」
彼女の返答に、(計画通り――――――)と、ほくそ笑んだわたしは、チッチッチッ、と人差し指を軽く振りながら、
「ところが、違うんだな〜、コレが……」
と、澄まし顔で答える。
わたしの返答に、
「えっ!? いや、じゃあ、誰が見てんの?」
と、当然の質問を返すナミに対して、振っていた指をそのまま彼女に向けた。
「えっ!? ウチ?」
突然、指をさされて驚いた表情を見せる友人に対して、わたしは、うなずきながら説明を続ける。
「そう! ナミみたいなイケメン好きの女子! 実は、男性の美容系動画って、視聴者のほとんどが、女子なんだって……これは、わたしに案件を紹介してくれる古都乃さんが、いつも、言ってることだから、間違いない! 『あ〜、誰でも良いから、男性向けの商品を売ってくれるインフルエンサーを紹介してほしいわ〜』ってね」
わたしの解説で、ようやく理解を得たらしいリコが聞き返してきた。
「つまり……イケてない男子を……亜矢がイケメンに変身させて、それをみんなに見てもらう、ってこと?」
彼女の質問に、ニッコリしながらうなずくが、一方のナミは、まだ懐疑的なようすで、
「そんなに上手く行くもんかな〜? だいたい、鳴尾はるかだって、服装はダサかったけど、もともと、顔の方はイケてた訳じゃん? 冴えない系男子をそこまで磨くことなんて、ホントにできんの?」
と、疑問を呈してくる。友人の能力を見くびる彼女に対し、
「わたしの腕にかかれば、余裕でしょ?」
自信たっぷりに答える。
「そこまで言うなら、ウチと賭けない? アヤがプロデュースする男子が、十一月の文化祭で人気トップになれるかどうか?」
「三日月祭のコンテストね? イイじゃない!? 受けて立つ!」
友人の挑発に乗ったわたしに対して、リコが、心配するように聞いてきた。
「ちょっと、亜矢、ホントに大丈夫なの? 三日月祭まで、あと、一ヶ月ちょっとしかないんだよ?」
慎重な性格のリコと、この状況を楽しむかのような笑みを浮かべているナミに対して、わたしは、返答する。
「そうね! 時間は短いから、さっそく、今日の放課後から、プロデュースする相手を探しに行きましょう? ふたりとも、手伝ってくれる?」
それぞれ、異なった表情でうなずくふたりのようすに満足しながら、わたしは、放課後のスカウト活動に思いを馳せる。
すると、ナミが、ホッとしたような表情と口ぶりで、こんなことを言ってきた。
「でも、ホント、安心したわ……他の学校でも、失恋動画が流出したり、学内イベントのライブ配信中に告白に失敗した生徒がいるって、友達に聞いたことがあったからさぁ~」
苦笑いしながら語る友人に、わたしは、
「ナニソレ? 詳しく!」
と、話しの続きをうながす。
わたしの振りに、すぐに応じたナミは、詳細を語りだした。
「市芦で、生徒会長とスイ部の副部長をやってる友達のミナコに教えてもらったんだけどさ〜。二年の男子が、春休みに失恋したことを《ミンスタ》のストーリーズに流しちゃって、そのあと、五月のオープン・スクールで別の女子に告白をしてフラれた時のようすがライブ配信されたらしいんだぁ。二ヶ月も経ってないのに、二人にフラれた上に、その動画がネットに上がってるって、マジ、ウケるよね〜」
ケラケラと笑いながら語るナミ。
彼女の言う「市芦」とは、市立芦宮高校のことで、公立高校ながら、わたしたちの住む地域では、トップの大学進学率を成績上位校だ。
基本的に内部進学する生徒が多い大学付属のわたしたちの高等部と違って、進学校ゆえの大学受験のプレッシャーもあるだろうに、良く、そんなイベントにチカラを入れられるものだ……と、関心しつつ、二ヶ月たらずの期間に、別々のコに告白するなんていう暴挙を行う男子なんて、女子の立場として
(フラれて当然だ、ざまぁみろ!)
と感じるが、そんな感情は、少しも顔に出さず、同情したふりをする。
「そうなんだ……その男の子、かわいそうだね……」
「そうそう! 恋愛関係のやらかし動画が二回もネット上に流れた男子もいるんだから、『アヤも気にすることないよ』って、励ましてあげようと思ってたんだけど……思ったより元気で良かったよ……」
そう言いながら、ほがらかに笑う友人に、
「ナミ、それ、フォローになってないから……」
と、目を細めながらツッコミを入れると、いつものわたしたちの会話の雰囲気に戻りつつあることを安心したのか、リコは苦笑しながら、友人を諭す。
「だから、言ったじゃん……奈美、それは、励ましにならないって……」
ただ、彼女は、そのあと、続けて気になることを口にした。
「それより、その五月のライブ配信動画で告白されたのって、白草四葉ちゃんだよね! たしか、今年の春に、市芦に転校してきたらしいよ」
――――――白草四葉。
同世代のカリスマとして、多くのメディアに注目されている彼女と同じように、古都乃さんから、色々な案件を紹介してもらっている瓦木亜矢の立場からすると、それは意識しないわけにはいかない名前だった。