君と私のウラオモテ

第1話【陰キャが水をかぶったら】

●教室、凜乃(りの)のクラス

香織(かおり)「今月のコウくんも素敵~!」
<自分の席で、雑誌をめくって、うっとりしている>

凜乃「ほんとだね、このモッズコートとか特にカッコいいじゃん」
<机に腰掛けた、ちょっと悪い態度>
<雑誌のページを指差して同意する>

香織「バーヴェリーの新作って書いてある! やっぱり普通のお店のより洗練されて見えるよね」

凜乃「うん、すごく大人っぽい」

香織「まぁ、コウくんは普通の服でもすっごいカッコいいけどね! 今回の写真、上げた前髪がセクシーだし!」
<ときめいて、興奮した様子で話す>

凜乃「う、うん。そうだね」
<勢いに押されて苦笑する>

香織「あーあ、街中でばったり会ったりしないかなぁ」
<夢見る表情>

凜乃「それは無理でしょ」
<もっと苦笑する>

香織「えー、わかんないよ! モデルなら、都内に住んでるだろうし、まったく可能性ないってことないって」
<こぶしを握って力説>

凜乃「はいはい、そうだね。あっ、そろそろ次の授業行かないと」
<時計を見上げて、気付く>

香織「そうだった! 待って、今、準備するから」
<慌てた様子で雑誌を閉じる>


私は二条(にじょう) 凜乃。
高校2年生。
金色に染めた髪に、バッチリメイク……。
いわゆるギャル系の、ちょっと派手な容姿をしている。
<凜乃の容姿と普段の様子>

最近、親友の満井(みつい) 香織がハマってるのは、大人気のメンズモデル・コウくん。
アイドルとかが好きな女子に、すごく人気があって、私もよく香織に見せられている。
<コウの容姿と、雑誌に載っていて人気がある様子>


凜乃(カッコいいけど……手は届かないでしょ、モデルなんてさ)
凜乃(でも憧れるだけなら自由だもんね)
<香織の支度を待ちながら、優しいことを思う>

香織「お待たせ、凜乃! 行こっ!」
<支度を済ませて、凜乃に声をかけてくる>


●廊下

凜乃「あと五分しかないね。少し急ご!」
<教材を抱えて、特別教室へ向かっている>
<少し急ぎ足>

香織「うん! あ、待ってよ凜乃!」
<ずんずん行ってしまう凜乃を、慌てた様子で追う>

凜乃「だって早く着いたほうが……うわっ!?」
<廊下を曲がろうとするところで、香織を振り向いてよそ見をしていた>
<急に向こうから、ひとがやってきて、驚いた声を上げる>

<ドンッ!>
<軽くぶつかってしまう凜乃と昂輝(こうき)

昂輝「あ……」
<凜乃とぶつかった昂輝、小さく声を出す>

<カシャン>
<昂輝のかけていた眼鏡が落ちる>

凜乃「び、びっくりしたぁ……」
<目を真ん丸にして、心底驚いている>

香織「大丈夫? 凜乃」
<心配そうに近寄る>

凜乃「私は大丈夫。えっと……壱科(いちか)くん、だよね? ごめん」
<昂輝のほうを見て、謝る>

昂輝「いや……」
<濁った声で答える、いかにも陰キャな様子>

凜乃「はい、眼鏡」
<眼鏡を拾って、渡す>

昂輝「……どうも」
<ぼそっと答えて、受け取る>

凜乃「前、見てなくて本当にごめんね。じゃ、香織、行こう」
<すまなさそうに謝り、香織を振り向く>

香織「……うん」
<昂輝が気がかりだという様子ながら、凜乃についていく>


●廊下

香織「びっくりしたぁ」

凜乃「まさか向こうからひとが来てるなんて。マジ悪いことしたわ」
<驚きが去らずに、言い合う2人>

香織「凜乃は優しいねぇ」

凜乃「そうかな?」
<不思議そうに聞く>

香織「だって……ほら、壱科くんって、クラスでも……」
<ちょっと言いづらそう>

凜乃「まぁ静かだけど……丁寧なひとなんじゃない?」
<あいまいに肯定するが、優しい見解を述べる>

香織「そうとも言えるけどさ。ぶっちゃけ陰キャだよね」
<気まずそうにしながらも、はっきり言う>

凜乃「そう言われてるけどさぁ。あっ! それどころじゃないって! 急がないと!」
<フォローすることを言いかけた>
<けれどそこで時間を思い出し、ハッとする>

香織「そうだった!」
<慌てた様子でバタバタと駆けていく2人>

昂輝「……」
<眼鏡をちゃんとかけた昂輝、その様子を後ろから見ている>

ぶつかっちゃった男子は、クラスでも一番地味な男の子。
はっきり言えば、香織が言っていた通りの陰キャだ。
地味だとか、クラいとか、男子にイジられていることもたまにあるくらい。
さすがに高校生になってまで、イジメなんてことはないけど、見ていてちょっと心は痛いかも……。
<凜乃から見た昂輝の普段の様子>
<暗くて、いかにも陰キャという様子>
<長い前髪のぼさぼさ髪に、眼鏡>


●放課後、教室

香織「ふー、やっと授業終わり! 部活、部活ぅ」
<爽快そうな様子で、わくわくしている>

凜乃「もう行くの?」
<バッグに荷物を詰めながら、軽く聞く>

香織「うん! 大会近いから、1分でも多く練習しなきゃ」
<スポーツバッグを手にしている、楽しそう>

凜乃「頑張るねぇ!」
<笑顔で感心している>

香織「ありがとう! 凜乃は今日なんかある?」

凜乃「私は花壇当番してから帰るよ」
<軽く答える>

香織「ちゃんとやってえらいねぇ」

凜乃「ま、義務だからさ」

香織「おっと、ほんとに行かないと! じゃ、また明日ね!」
<笑顔で片手を上げて、スポーツバッグを持って出て行く>

凜乃「じゃあねー」
<手を振る>

香織は女子サッカー部。
まだ選手になれるのはたまにだけど、「来年はレギュラー入りだ!」って頑張ってる。
<香織がサッカー部を頑張っている様子>


●校庭の花壇

凜乃「さー、水やりだ!」

凜乃「今日も元気そう」
<校庭へ出てきた凜乃>
<花壇を前にして、笑顔>

校庭にある花壇の水やりは交代制。
今日は私が当番だ。
植物は結構好きだから、あんまり面倒だとは思わない。

凜乃「ふん、ふん♪」
<ホースを引っ張って、花に水をかけている>
<鼻歌を歌って、楽しそう>

凜乃「次はあっち……っと」
<ぐいっとホースを引っ張って、次へ行こうとする>

凜乃(あれっ、ホースが来ないな)

凜乃(絡まっちゃったかな?)
<ホースが来ないので、不思議に思う>

凜乃「えいっ!」
<思い切り引っ張った>

昂輝「え?」
<ちょうど通りかかっていた昂輝、不思議そうな声を出す>

凜乃「えっ!?」
<そちらを見て、驚く>

凜乃「わ、わぁぁ!?」
<そこで引っ張りすぎたホースが暴走し、凜乃の手を離れて水を噴き上げる>

昂輝「ひゃ……!」
<ひるむ>

<バシャーン!>
<水が昂輝に直撃し、思い切り振りかかった>

昂輝「……」
<ずぶ濡れになった>
<眼鏡も落ちてしまった>

凜乃「……え」
<突然のことに、呆然とする>

昂輝「……」
<ぽたぽた水をしたたらせながら、立ち尽くす>

凜乃「はっ! ごごごごめん! 大丈夫!?」
<やっとはっとして、慌てて謝り、駆け寄る>

昂輝「……ちっ」
<ずぶ濡れでうつむいたまま、舌打ち>

凜乃「え?」
<驚き、足が止まる>

昂輝「注意力散漫過ぎるだろ!」
<ばっと顔を上げ、普段では考えられないような怖い顔で怒鳴る>

凜乃「ひゃぁ!?」
<びくっとしてしまう>

昂輝「くそっ、びしょ濡れ……冷たっ」
<うっとうしそう>
<心から不快だという様子>

凜乃「ご、ごめんね……、すぐになんと……か……?」
<すまなさそうにおろおろ謝るが、言葉が途切れる>

<昂輝が髪を掻き上げた>

昂輝「なんだよ」
<眼鏡も前髪もない素顔が見えたことに気付かず、不審そうな顔>

凜乃「そ、……の顔……」
<驚き、呆然と呟く>

昂輝「……!」
<やっと、ハッと気付く>

凜乃「コウくんみたい……」
<呆然と呟く>

昂輝「……だったらなんだよ」
<警戒の顔>

凜乃「もしかして兄弟とか? すっごい似てる!」
<明るい顔になり、勢いよく言う>

昂輝「……はぁ」
<気の抜けたため息>

凜乃「?」
<きょとんとする>

昂輝「あんた、鈍いって言われない?」
<ぎろっと睨んでくる>

凜乃「え」
<固まる>

昂輝「教室でいつもキャッキャしてるのに、本人かもわからないわけ」
<呆れた顔、馬鹿にするように言う>

凜乃「え、……ほんに、ん?」
<変な顔で固まりつつ、呟く>

昂輝「いいか、絶対他人に言うんじゃないぞ」
<凜乃を睨みつける>

凜乃「へ……っ、本当に本人……なの!?」
<現状を理解し、やっと声を張り上げる>

昂輝「ほかになにがあるんだよ! あんたさぁ、水ぶっかけてきといて……へくしっ!」
<噛みつくように言う>
<怒鳴ろうとしたが、くしゃみが出る>

凜乃「あ、ああ! ごめん! こんなずぶ濡れにしちゃった……寒いのに……」
<おろおろする>

昂輝「ったく、なんて災難だ」
<恨めしげな顔>

凜乃「ほんとにごめん……、そ、そうだ! 私の家、学校のすぐ前なんだ!」
<すまなさそうに謝り、そのあと気付いた顔になる>

昂輝「それが?」
<不審そう>

凜乃「おわびに濡れた服、なんとかするよ!」
<きっぱり言う>

昂輝「は? あんたの家に来いって?」

凜乃「だって悪いじゃん! 風邪引いちゃう!」

昂輝「はぁ。そうだな」
<気の抜けた声>

凜乃「そうと決まったら行こ!」
<ホースを片付けようとしながら、声をかける>

昂輝「花壇は?」
<不審そう>

凜乃「それどころじゃないよっ! 早く早く!」
<さっさと片付けながら、急かす>

昂輝「……はぁ。あんた、変なやつ」
<呆れたという顔>
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop