雷の夜に 〜憧れ上司と二人きりの残業は甘くて〜
 彼女はキョロキョロと周りを見回して、コソッと私に言う。
「課長と進展があったら教えてね」
 彼女だけは私の恋心を知っている。だからそう言われたのだけど。

「ないよ、そんなの」
 私は即答した。

 あるわけがない。
 課長と私は業務以外ではほとんど話したことがない。
 課長にとって、私は部下の一人に過ぎない。
 わかっているから、私は部下として仕事をするのみだ。





 空模様が怪しくなってきた。
 どんよりと曇り、いつ降り出してもおかしくない感じだ。

 傘、持ってきてないのに。
 私はため息をついた。

 フロアには課長と私の二人きりになった。
 雨がポツポツと降り出し、すぐに窓に打ち付ける勢いになった。

 仕事が終わる頃には止むといいんだけど。
 思いながらもパソコンで作業を進める。

 ピカッと雷が光った。
 直後、轟音が響く。空気が震え、体がびくっとした。

「ひっ!」
 思わず声を上げていた。

 私は慌てて口に両手を当てる。なんてかわいくない悲鳴。課長にも聞こえただろうか。
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