雷の夜に 〜憧れ上司と二人きりの残業は甘くて〜
「大丈夫か?」
「ひゃい!」
 課長に尋ねられ、返事の声は裏返った。

「大丈夫じゃなさそうだが」
「大丈夫です! ちょっと驚いただけで。雷ってきれいですよね」
 平気ですよアピールのために、私は席を立って窓に近づいた。

「窓には近づかないほうがいい」
 課長が席を立ち、私の隣に立つ。

「側撃雷がくると危ないから」
「そくげきらい?」

「雷が壁や木などを伝って、別のものに飛び移る現象だ。このビルは避雷針があるが、念のために窓から離れたほうがいいだろう」
 そう言って私の肩を抱くようにするから、私はドキッとした。

「ありがとうございます」
 席に戻ろうとすると、なぜか課長は押しとどめるように肩に置く手に力を込めた。窓から離れた方がいいと言ったのに。

「前から、君とは話をしたいと思っていた」
 耳元で言われて、私の心臓がさらにどきどきする。

「な、なんでしょう」
 答える私から課長が手を離す。

 私はホッとして課長を見た。迷うような目をした彼は、ややあって、決心したように口を開いた。
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