雷の夜に 〜憧れ上司と二人きりの残業は甘くて〜
「君はいつも冷静なのに、俺の前ではぎこちなかったり急に慌てたりする。なんでだろうって、ずっと目で追ってしまっていた。俺だけがマイナスの意味で特別なんだな、と落ち込んでいた。俺はなにか君に不快を与えるようなことをしただろうか」

「違います。課長の前だと緊張しちゃって……」
「どうして?」
 課長は真剣な顔で私を見る。

「仕事、しないと……急ぎなんですよね」
「急いでないよ」

「残業を頼んだのは、君と二人になりたかったから。ごめんね」
「え、いえ……」
 二人になりたかったって、どういうこと!?

「少しでも君との距離を縮めたかった」
 距離を縮めたかったって。そんな言い方されたら、錯覚しちゃう。

 私はどきどきして目を逸らした。どうしよう、きっと顔が赤くなってる。課長に見られたら好きだってばれちゃう。でももう、見られてるよね……。

「少なくとも君は俺を嫌ってない、そう思っていいのか?」
「……はい」
 嫌ってない、どころじゃない。

 課長との物理的な距離が近くて、私の胸はどうしようもなく鼓動を早くする。
 途切れた会話の接ぎ穂が見つからない。

 早く席に戻って仕事しなくちゃ。
 そう思うのに、戻りたくない。課長の隣にいられるこの時間を、少しでも長く感じたい。

 話が終わったのに動かない私を、課長はどう思うのだろう。
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