雷の夜に 〜憧れ上司と二人きりの残業は甘くて〜
 窓の外に閃光が走り、轟音が響く。
「きゃあ!」
 私は思わず手近な存在に抱きついていた。

「大丈夫」
 しっかりと抱きとめられ、守られる安心感が広がった。私の中の恐怖がすぐに薄らいでいく。

 ほっとして顔をあげると、微笑を浮かべる課長の顔があった。
 目をぱちくりさせてから、私は自分のしでかしたことに気がついた。

「役得、かな?」
 課長はくすくす笑う。
「す、すみません!」
 私は驚きのあまりに課長に抱きついてしまっていたのだ。慌てて離れる。

 だけど、抱き着いたときの暖かさ、守るように包まれた安心感、彼の力強い腕の感触が残っていて、胸がきゅんと甘く痛んだ。

「もう離れちゃうんだ。残念」
「恋人に申し訳ないです」
 私は小さくなって言う。

「恋人なんていないよ」
「そうなんですか!?」
 こんなに素敵なんだから、恋人はもういるのだと思っていたのに。

「好きな人ならいるけどね」
「そう……ですか」
 私は落胆を出さないように気をつけて答えた。

 私なんかが課長とつきあえるわけない。わかってるのに、どうしてがっかりしちゃうんだろう。

「もしかして、がっかりしてくれてる?」
 驚くように聞かれて、私はうつむいた。バレてるなんて恥ずかし過ぎる。
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