氷龍の贄姫
プロローグ
氷龍とともに眠りにつこうとする彼女の姿を見送った。白藍の髪は、風によって不規則に揺れている。
――行かないで!
何度もその言葉を言いかけては呑み込んだ。
とめどなく溢れてくる涙を隠しもせずに、王城が氷に包まれていく様子を見つめる。
頬をなでつける風は次第に冷たくなり、刃のような鋭さで吹きつける。
「エセルバード……」
義父が優しく名を呼ぶ。
義父は彼女の近衛騎士であった。このたび、彼女が氷龍の贄姫となったため、その任を解かれた。
「そろそろ戻ろう。ラクシュリーナ様は、お前が健やかに育つことを望まれている。姫様の決意を無駄にするな」
「はい、義父上……」
唇をきつく噛みしめる。
次第にこの場所も、涙が凍るほどの吹雪に襲われるだろう。
氷の王城に背を向け、幼いエセルバードは義父とその場を去った。
ウラグス大陸歴三八十年――アイスエーグル国の王城は、氷龍を守るために氷に包まれた。
氷の王城で氷龍とともに眠りについたのは、アイスエーグル国第二王女のラクシュリーナ。当時十九歳の、まだどこか幼さが残る彼女だった。
彼女によって、この大陸の平穏は保たれている。
――行かないで!
何度もその言葉を言いかけては呑み込んだ。
とめどなく溢れてくる涙を隠しもせずに、王城が氷に包まれていく様子を見つめる。
頬をなでつける風は次第に冷たくなり、刃のような鋭さで吹きつける。
「エセルバード……」
義父が優しく名を呼ぶ。
義父は彼女の近衛騎士であった。このたび、彼女が氷龍の贄姫となったため、その任を解かれた。
「そろそろ戻ろう。ラクシュリーナ様は、お前が健やかに育つことを望まれている。姫様の決意を無駄にするな」
「はい、義父上……」
唇をきつく噛みしめる。
次第にこの場所も、涙が凍るほどの吹雪に襲われるだろう。
氷の王城に背を向け、幼いエセルバードは義父とその場を去った。
ウラグス大陸歴三八十年――アイスエーグル国の王城は、氷龍を守るために氷に包まれた。
氷の王城で氷龍とともに眠りについたのは、アイスエーグル国第二王女のラクシュリーナ。当時十九歳の、まだどこか幼さが残る彼女だった。
彼女によって、この大陸の平穏は保たれている。
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