氷龍の贄姫
「姫様。先ほども言いましたし、何度も言いますが。エセルバードは騎士として私が鍛えます。けして、姫様と遊ばせるためにマルクから引き取ったわけではありませんので」
「失礼ね、サライアス。何度も言っているでしょう? わたくしは子どもではありません。だけど、エセルバードに勉強を教えるのはいいでしょう?」
 とにかく何かと口実をつけて、彼女はエセルバードと時間を一緒に過ごしたいらしい。
 それもラクシュリーナの境遇を考えると、仕方のないことなのかもしれない。
 サライアスは深く長く息を吐いた。
「人に教えることは自身の勉強にもなりますからね。教師がよいと言えばいいのでは?」
「それってサライアスの経験みたいで、説得力があるわね。あなたもよく人に教えているものね」
 それは彼の立場上、必要なものであるからだ。
 だが、サライアスもなんだかんだでラクシュリーナには甘い。そのため、強くは言えない。
「あ、エセルバード。エセルバードは呼びにくいわね。わたくしもエセルと呼んでいいかしら?」
「は、はいっ……」
「では、エセル。喉は渇いていないかしら? お風呂に入って、水分を奪われたでしょう? ハーブティーは苦手? 普通の紅茶のほうがいい?」
「姫様、あとは私がやりますから。姫様は、一度お部屋にお戻りください。そろそろ勉強の時間では? それとも、その勉強をエセルを利用してさぼろうと思っているわけではないですよね?」
 サライアスがそう言えば、ラクシュリーナは不満だとでも言うかのように、唇をとがらせた。
「そのような顔をされても無駄です。カーラ、姫様をお願いします」
「はいはい、姫様。エセル様はサライアス様にお任せして、姫様はお部屋に戻りましょう」
 ラクシュリーナは、唇をとがらせたまま談話室を後にした。
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