氷龍の贄姫
 塔の上にある自室を目指す。くるくると螺旋になっている階段を上っていく。
 ラクシュリーナは、けしてここに幽閉されているわけではない。塔の外には自由に出られるし、公務があれば向こうに足を運ぶときだってある。
 ラクシュリーナが離塔で暮らしているのは、国王でもある父親から嫌われているからだ。
 十年前の流行病で王妃が命を失ったのは、ラクシュリーナが彼女にその病をうつしたためだった。幼いラクシュリーナを、母親である王妃は、根をつめて看病した。ラクシュリーナは子どもで体力もあり、母親の看病のおかげで回復した。
 しかし、病をうつされた王妃は違った。たくさんの人々の命の灯火が消えていく中、王妃の命も尽きた。あの病から回復した者は、百人に一人いるかいないかと言われているくらいだ。特効薬もなく、かかったら最後。待っているのは死のみ。
 国王は、王妃を愛していた。その命を奪ったのはラクシュリーナだと思っている。
 王妃の葬儀が終わったあと、国王はラクシュリーナに言ったのだ。
 ――当分、お前の顔は見たくない。
 幼いラクシュリーナも、父親から嫌われたのを瞬時に悟った。
 ラクシュリーナには兄が二人と姉が一人いて、末の妹に向かってそのような言葉を吐いた父親を、一番上の兄が咎めた。それでもラクシュリーナは、これ以上、父親から嫌われたくなかった。
 だから離塔で暮らす話を受け入れた。
 ラクシュリーナは亡き王妃にうり二つである。髪の色も、瞳の色も。そして顔の造形も。
 国王は今でも、ラクシュリーナの顔を見ると、憎悪を含んだ瞳で見つめてくる。

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