氷龍の贄姫
「お姉様がフレイムシアン国に?」
 その話を聞いたのは、雪が降り積もった日の朝。外一面が銀世界で、太陽がきらきらと雪の粒を光らせていた日のこと。
「はい。ですから、本日の午後、オーレリア様がお会いしたいとのことです」
 ラクシュリーナは顔をしかめた。
 姉のオーレリアも二十歳になった。どこかに嫁いだっておかしくはない年頃だ。
 各国と腹の探り合いをしながら、オーレリアとラクシュリーナをどこに嫁がせるかは、重鎮たちの頭を悩ませる話でもあったのだ。その話の一つがまとまっただけ。
「なぜフレイムシアン国?」
「あちらの王太子が二十三歳ですから。単純に、年が釣り合うということではないでしょうか」
 そう言ったサライアスの右目がひくひくと動いた。これは彼が嘘をついているとき、ラクシュリーナに心配をかけたくないときに見られる特徴でもある。
 だがサライアスは、自身のその癖に気づいていないし、ラクシュリーナも彼に指摘しようとは思ってもいない。
「わかりました。お姉様にはお会いすると伝えてください」
 そこへ、エセルバードが銀トレイにお茶をのせて持ってきた。最近の彼は、こういった従僕のような仕事も行っている。何事も経験でありそれが成長の糧となる、というのがサライアスの考えであった。
「ありがとう、エセル。あなたもお茶を淹れるのが上手になったわね」
「お褒めの言葉をいただき、光栄です」
 ここへ来たときはおどおどとしたしゃべり方をしていたエセルバードも、今では幼さを残しつつも大人びた会話をするようになっていた。
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