氷龍の贄姫
「ねぇ、サライアス? もしかして、お姉様の縁談は龍魔石と関係していない?」
 またサライアスの右目がひくっと動いた。
「私の仕事は姫様の護衛ですので。そういった話は何も聞いておりません」
 そう言いながらも、彼は近衛騎士隊長なのだ。正確には第五近衛騎士隊長。それでも隊長という肩書きは、組織をとりまとめる必要もある。だから時折、彼が騎士の間に呼ばれ、何やら会議に参加しているのも知っている。サライアスが不在だと、担当の騎士が「隊長は会議ですので」と口にするからだ。
「そう……」
 サライアスが教えてくれないのなら、オーレリア本人に問いただせばよい。むしろ、オーレリアのほうから、何かしら教えてくれるかもしれない。
 雪の日に離塔と本城を行き来するだけでも、身体に力が入ってしまう。その道はきれいに雪かきがされており、こういった雪かきも使用人や子どもたちの仕事である。
「姫様、転ばないように気をつけてください」
 サライアスの言葉に「だから、子どもじゃないの」とラクシュリーナはぷっと頬を膨らませる。
 彼らは毎日のように本城と離塔を行き来しているから、雪道を歩くのも慣れている。だが、ラクシュリーナは慣れていなかった。夜になれば、身体のどこかが痛むかもしれない。
 本城のエントランスは、以前訪れたときと変わりはなかった。エントランスから真っ直ぐ進めば、大広間へとつながる。だが今日は、その脇にある階段をあがり、ギャラリーを抜けて、王族のプライベートゾーンへと入った。入り口には見張りの騎士もいるが、ラクシュリーナとサライアスの顔を確認すると、すんなりと通す。だがサライアスの後ろを歩いている、エセルバードだけには怪訝そうな視線を向けた。
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