氷龍の贄姫
 コツ、コツ、コツ、コツ――。
 ラクシュリーナは白い扉の前に立つ。繊細な装飾は、何かの植物の蔦のように見える。だが、これが何を表しているのか、正確なものはわからない。
「ラクシュリーナです」
「どうぞ」
 オーレリアの明るい声が中から聞こえてきた。ラクシュリーナはサライアスとエセルバードに目配せをして、部屋へと入る。彼らは部屋の外で待つ。
「いらっしゃい、ラクシュリーナ。顔を見せてちょうだい」
 ラクシュリーナを迎え入れたオーレリアは、ぎゅっと抱きついてきた。オーレリアのほうがほんの少し背が高い。彼女は父親である国王似であると、昔から言われていた。飴色の髪も、黒檀の瞳も。それでもやはり姉妹なのだろう。髪の色も瞳の色も異なっていたとしても、そこに漂う雰囲気が似ている。立ち居振る舞いとか、横顔とか、そういった些細なもの。
「元気そうで安心したわ」
「ええ、お姉様。わたくしは元気ですよ。離塔での暮らしもこちらでの暮らしと変わりはありませんもの」
「そうね」
 オーレリアは、長椅子に座るようにとラクシュリーナをうながした。オーレリアが目配せをすると、侍女が黙ってお茶の準備を始める。その彼女がすべての用意を終え、下がったところでオーレリアが口を開いた。
 彼女はラクシュリーナの隣に座った。込み入った話をするときは、このほうが都合はよい。
「ラクシュリーナ。氷龍の話は聞いているかしら?」
「えぇ、少しですが。氷龍の龍魔石が減ってきているというのは、知っています」
「その通りよ」
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