氷龍の贄姫
 オーレリアは頷いた。
「今、歴史学者や生物学者など、国内の有識者たちがこの王城に集められているの。採取できる龍魔石の量がこのまま減り続けると、私たちの生活は立ちいかなくなる」
「龍魔石が減っているのは、氷龍だけなのですか? それとも他の国も同じように?」
「今のところ、氷龍だけみたい。他国からはそのような話は聞こえてこないと」
 龍魔石は龍の鱗が形を変えたものだ。
 氷龍は、王城の『工』の形をした『I』の最上階にある龍の間にいる。そこで身体を横たえ休み、気が向けば回廊から外へ飛び立ち、空を飛翔する。氷龍の食事は清んだ空気である。特に冬の日の冷えた空気はご馳走のようで、冬になると氷龍たちが生き生きとし始めた。
 氷龍が飛び立ったあとの飛龍の間には、龍魔石がぼろぼろと転がっている。その龍魔石を回収するのも、龍魔石回収人と呼ばれる使用人たちの仕事である。そうしないと、氷龍が戻ってきたときに、自身の龍魔石で怪我をするときもあるのだ。
 ラクシュリーナは白磁のカップに手を伸ばす。この国の紅茶は、身体があたたまるようにと香辛料の強いものが多い。カップを唇に近づけると、香辛料の独特のにおいがした。一口飲むと、ひりっとした刺激が喉元を通り過ぎていく。
「……ケホッ」
 あまりにもの刺激の強さにむせてしまった。
「あら、ラクシュリーナ、大丈夫? そんなに強くはないものだと思っていたのだけれど」
「え、えぇ……」
 ラクシュリーナには飲み慣れていないだけ。離塔で飲む紅茶は、香辛料を控えてある。
 オーレリアにけして悪気があったわけではない。彼女は心配そうにラクシュリーナの背をさする。
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