氷龍の贄姫
「それで、お姉様……。今日は、どういった話を? 龍魔石についてが本題ではありませんよね?」
 涙目でラクシュリーナが尋ねると、オーレリアはぱちぱちと素早く瞬きをした。
「そうね」
 オーレリアもカップに手を伸ばし、お茶を飲む。その一連の動作を思わず目で追ってしまった。上下する喉元をじっと見つめる。何か言いにくいことを言いたそうな、やはり言いにくそうな、そんな雰囲気である。
 彼女は何事もなくカップを戻した。
「私に縁談がきたの。フレイムシアン国の王太子。どう思う?」
 どう思うと問われても、ラクシュリーナはその王太子をよくわからない。いや、外交パーティーの場で顔を合わせたことくらいはあったかもしれない。だが、どういう顔で容姿だったかは、まったく思い出せない。
「もしかしてお姉様。その縁談が嫌なのですか?」
 それでラクシュリーナに代わりに嫁げと言い出すのだろうか。
「そうではないのだけれど……。やはり、フレイムシアンに嫁ぐというのが少しだけ不安で」
「お父様やお兄様たちは、どのようにおっしゃっているのですか? わたくしは、フレイムシアンの王太子殿下がどのような方か詳しく存じ上げないので」
「……そうよね。お父様もお兄様も、フレイムシアンの王太子殿下――ブラッドフォーム殿下は縁談の相手としてはこのうえない相手だと……誠実な方、と言われたわ」
 また無難な言葉だ。
「私たちが好きな方と結ばれることはないのだろうけれども……」
 それではまるで、オーレリアに想い人がいるかのような言い方である。
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