氷龍の贄姫
第一話:出会
 ウラグス大陸の北に位置するアイスエーグル国は、一年の三分の一が雪で覆われる国である。冬に十分な雪が降らなければ、春から夏にかけて周囲が水不足に陥ってしまうため、アイスエーグル国は水瓶の国とも呼ばれていた。
 昔から、北にあるコミル山に三度雪が降れば、平地にも雪が下りてくると伝えられている。こういった言い伝えとは、不思議と当たるもの。
 さらに雪が降ると、王城の空を何体もの氷龍が嬉しそうに飛び回る。氷龍はアイスエーグル国の象徴とも言われている存在であり、氷龍の力のおかげで、寒さが厳しいこの地方でも生活は豊かであった。
 氷龍はその名の通り氷の龍である。身体の色は氷のように透明で、飛翔する姿も天気によっては見えたり見えなかったりする。
 人々は氷龍を心から敬愛しており、氷龍の像を各地に建てて奉っている。年明けには、氷龍とともに新しい年の門出を祝うお祭りも開かれていた。
 ウラグス大陸には、氷龍のアイスエーグル国のほか、火龍のフレイムシアン国、風龍のウィンドセリー国、土龍のソイルバエ国の四つの国があり、それぞれの国が象徴とする龍の加護を受けている。

 今日は、朝から静かに雪が降っていた。
 先ほどより、子どもたちの賑やかな声が外から聞こえてくる。声の主は、きっと使用人の子どもたちにちがいない。
 雪が降って喜ぶのは、子どもと犬くらいなのだ。大人と猫は、あたたかな室内でのんびり過ごしたいと考えている。
 だが、この国の第二王女であるラクシュリーナは、そのどちらにも分類されないような微妙な年頃である。雪が降ったから外で遊びたいわけでもないし、暖炉の前でぬくぬくとしていたいわけでもない。
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