氷龍の贄姫
 ラクシュリーナは一歩一歩、ゆっくりと雪道を歩く。その結果、なんとか離塔まで足を滑らせずに歩くことができた。
 離塔のエントランスでは、すぐさまカーラが出迎える。
「あらあら姫様。お顔が赤いですよ。お外は寒かったですよね。どうぞ、火の側に」
 明々と燃える暖炉前にある長椅子に、ラクシュリーナは腰を落ち着ける。
 カーラにも指摘された頬を、両手で包み込む。先ほども顔が赤くなっていたのは、ランタンの明かりのせいではなかったのだ。
「子どもの成長って早いのね……」
 ラクシュリーナはぽつりと呟いた。きっと子の成長を見守る親は、こんな気持ちになるのだろう。
 カーラが手渡した湯気の漂うカップを両手で包み込んだ。
 サライアスとエセルバードは上着を脱いで、少し離れた場所に座り、二人で何か言葉を交わしている。
 血のつながりのない二人なのに、こうやって見ると本当の父子(おやこ)に見えるから不思議だ。
 ラクシュリーナの胸の奥が、ズキッと軋んだ。

 その日の夕食は、あたたかなシチューであったのに、ラクシュリーナには食欲がなかった。帰ってきてからも、顔は火照ったままだ。
「姫様……」
 そんなラクシュリーナに声をかけたのは、エセルバードである。
「食欲がないようですが……。もしかして、体調がすぐれないのではありませんか?」
 エセルバードは、ラクシュリーナの食事中はサライアスと並んで離れた場所に立っていた。だが、つかつかと歩いてきて、声をかけたのだ。
「え? あ、そうね」
「姫様、失礼いたします」
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