氷龍の贄姫
 エセルバードの手が伸びてきて、ぴたっとラクシュリーナの額に触れる。
「義父上。姫様、熱があります」
 その声を合図に、サライアスも近づいてきた。驚いたカーラも駆け寄ってくる。
「目も潤んでおりますね。喉は渇いておりませんか? 冷たいお水をお持ちします」
 カーラは水差しからグラスへ水を注ぎ、それをラクシュリーナの手に持たせた。
 手のひらに触れる冷たいグラスが気持ちよい。それをそのまま、頬にぺたっとくっつけたいくらいである。だが、そんなことをしたら行儀が悪いと、カーラやサライアスに叱られてしまう。
 水を飲む。冷えた水は、身体を潤し、熱を奪い去ってくれるような気がした。
「姫様、失礼します」
 ラクシュリーナの身体がふわりと浮いた。サライアスによって抱き上げられてしまった。
「寝台は整えてありますので」
 カーラの言葉に頷いたサライアスは、軽々とラクシュリーナを連れていく。その後ろを、唇を引き締めたエセルバードが小走りでついてくる。
「もう……。わたくし、子どもじゃないのよ……」
「子どもでなくとも。このように倒れそうな女性を、一人で歩かせるわけにはいきません。我々は姫様を守る騎士ですから」
「エセルもごめんなさいね」
 ラクシュリーナがサライアスの後ろにいたエセルバードに声をかけたのは、彼が少しだけ表情を曇らせていたからだ。
「ボク、医者を呼んできます」
「エセル。今夜は動くな。こういう日は、医者がこちらまで来るのも危険だ。外は暗くて滑るからな。動かない決断をすることも大事なときもある。明日の朝一、医者を呼ぶ」
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