氷龍の贄姫
 それからしばらくは、王城の住居棟でゼクスとともに暮らしていた。ゼクスが仕事で不在のときは、手の空いている誰かがエセルバードの世話をする。あそこは、それぞれが助け合って生きるような、そんな場所でもあった。
 エセルバードが物事を理解できるようになったときに、両親がいないのを不思議に思いゼクスに尋ねた。すると彼は、からっとした声で、エセルバードを拾ったと打ち明けてくれた。変に隠されるよりはいい。その話を聞き、今までよりもゼクスが好きになった。
 その頃、すでにゼクスは回収人の仕事を終え、王城から王都外れの小さな屋敷へと戻っていた。しばらくはゼクスとささやかな暮らしをしていたが、年も年だったゼクスは、ある日の朝、突然亡くなった。
 そのときの記憶は曖昧だ。
 気づけば、ゼクスの同僚であったマルクとともに、王城の住居棟へと戻ってきていた。マルクはゼクスから頼まれたからと、明るく教えてくれた。
 マルクとの生活も悪くはなかった。彼もまた龍魔石回収人であり、忙しく動いていた。
 エセルバードは自分でできる仕事を与えてもらい、自分なりにそれをこなしていた。
 だが、彼が真面目に仕事に取り組むのが面白くないと思う者もいたのだ。
 特に、それは同じような年代の子どもたちである。
 仕事があったとしても、彼らは遊びに誘ってくる。それは断ってはならないと思いつつも、けして楽しいものではなかった。
 殴る、蹴る、髪を引っ張られる。そして雪が降ったあの日は、雪玉をこれほどかというくらい、ぶつけられていた。遊びに誘う振りをしてエセルバードを外に誘い出し、行っていたのはそういったいじめのようなもの。
 そこで出会ったのがラクシュリーナである。
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