氷龍の贄姫
命令だから立ちなさいと言った彼女は、息をするのを忘れるくらい美しかった。そして、騎士にならないかと声をかけてくれた。正確には、騎士の弟子であるが。
サライアスも困った様子ではあったが、エセルバードが意思を伝えると、快く迎え入れてくれた。それはゼクスの孫という肩書きがあったからのようだ。
それでもあの日を境目に、エセルバードの人生が大きく変化したのは言うまでもない。
体格にもめぐまれ、同年代の子どもたちよりも頭半分だけ大きくなった。だが、成長期はこれからであるため、まだまだ大きくなるだろうと、サライアスは楽しそうに笑っていた。
今は、サライアスの名を借りるような形で、ラクシュリーナの側にいるのを許されている。できることならば、エセルバードとして、彼女の側にいる権利を得たい。
十歳も年上の彼女は、たまに自分より幼い仕草を見せてくる。それを指摘すると「エセルが大人になったのよ」と言い返してくるのだが、エセルバードにはそういった自覚もない。ただラクシュリーナに認めてもらいたいのと、サライアスの名に泥を塗らないような行動を意識しているだけなのだ。
「エセル、姫様の具合はどうだ?」
食事を手にしたサライアスが、控えの間に入ってきた。
「はい。熱は高いのですが、おやすみになられていたので、まだ薬は飲んでおりません」
「……そうか。では、時期をみて飲ませなければならないな」
その言葉に、エセルバードも頷いた。あまりに高熱が続くのは、心配である。十数年前に猛威を振るった流行病の話を思い出してしまう。
「食事をもらってきた。食べなさい」
「はい。ありがとうございます」
サライアスも困った様子ではあったが、エセルバードが意思を伝えると、快く迎え入れてくれた。それはゼクスの孫という肩書きがあったからのようだ。
それでもあの日を境目に、エセルバードの人生が大きく変化したのは言うまでもない。
体格にもめぐまれ、同年代の子どもたちよりも頭半分だけ大きくなった。だが、成長期はこれからであるため、まだまだ大きくなるだろうと、サライアスは楽しそうに笑っていた。
今は、サライアスの名を借りるような形で、ラクシュリーナの側にいるのを許されている。できることならば、エセルバードとして、彼女の側にいる権利を得たい。
十歳も年上の彼女は、たまに自分より幼い仕草を見せてくる。それを指摘すると「エセルが大人になったのよ」と言い返してくるのだが、エセルバードにはそういった自覚もない。ただラクシュリーナに認めてもらいたいのと、サライアスの名に泥を塗らないような行動を意識しているだけなのだ。
「エセル、姫様の具合はどうだ?」
食事を手にしたサライアスが、控えの間に入ってきた。
「はい。熱は高いのですが、おやすみになられていたので、まだ薬は飲んでおりません」
「……そうか。では、時期をみて飲ませなければならないな」
その言葉に、エセルバードも頷いた。あまりに高熱が続くのは、心配である。十数年前に猛威を振るった流行病の話を思い出してしまう。
「食事をもらってきた。食べなさい」
「はい。ありがとうございます」