氷龍の贄姫
 ただ、雪で遊んでいる子どもたちの様子が気になって、ぼんやりと外を眺めていた。アイスエーグルの王城は『工』の形をしており、奥が使用人やその家族の居住棟となっている。子どもたちも仕事を与えられ働いているときもあれば、勉強をするときもあり、そしてこのように遊んでいるときもある。
 特にラクシュリーナが与えられた部屋からは、外で遊ぶ子どもたちの様子がよく見えた。
 年頃の女性が好みそうな、薄い黄色を基調とした明るい部屋である。壁には花が咲いたような刺繍が施され、カーテンも絨毯も、春の訪れを感じさせるような淡い色。
「サライアス。外に出たいのだけれど、よろしいかしら?」
 控えの間にいる近衛騎士、サライアス・オルコットに声をかけた。彼はラクシュリーナから見たら、父親に近い年代である。赤茶の髪を短く刈り、茶色の瞳も力強い。身体も大きく、ラクシュリーナは彼と話すために見上げる必要がある。近衛騎士としてこれほど心強い者もいないだろう。
 そんな彼が未だに独身であるのは、十年前に婚約者を失ったからだと聞いている。十年前、アイスエーグル国には質の悪い流行病が蔓延したのだ。彼は、十年経った今でもその婚約者を忘れられずにいるらしい。一途といえば聞こえはいいが、未練がましい、女々しいという声も聞こえてくる。
 そういった理由もあって、彼はラクシュリーナの近衛騎士隊長を命じられた。彼はすぐにラクシュリーナの側へとやってきた。
「はい。ですが、外は雪が降っておりますので、あたたかな格好でお願いします」
「もう。わたくし、子どもじゃないのよ」
 二人のやりとりを、やわらかな眼差しで見守っているのが、侍女のカーラである。彼女はラクシュリーナの母親よりもずっと上の年代で、サライアスすら子どものように扱ってしまう。何事もおおらかに包み込むような、おっとりとした女性だ。彼女もまた、十年前の流行病で娘夫婦を失っている。
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