氷龍の贄姫
第六話:暗転
 熱が下がったラクシュリーナは、けろっとしていた。お腹が空いたわ、といつもの調子で言い出すと、カーラがすぐに食事の用意をし始めたくらいだ。
 医者がやってきて、ラクシュリーナを診察したが、ただの風邪だろうとの話だった。
 昨日、外に出て寒さに当たったのが原因ではなかろうかと。発疹は身体にないため、例の病ではないと、医師は断言した。
 熱も下がり食欲もあることから、滋養のある物を食べて、ゆっくり身体を休めるようにとのことだった。
「ねぇ? カーラもサライアスも、過保護だと思うのよ?」
 すっかりと元気になったラクシュリーナであるが、雪が積もった日は、いくら雪がやんでいようとも外に出してもらえなくなった。雪道で転びかけたのも原因のようだ。
 だからエセルバードが顔を出すたびに、そうやって愚痴を言っている。
 この部屋を訪れるようになって、エセルバードはすぐに気づいた。ここから、子どもたちが遊ぶ様子がよくわかる。
 きっとあの日も、ここから彼女は見ていたにちがいない。
「そうですね。姫様が雪道をうまく歩けるようになったら、外に出してもらえるのではないでしょうか」
「でもそれって、外に出て練習をしなければならないと思うのね。外に出られないわたくしが、それを練習するのはどうしたらよいと思う?」
 まるで卵が先かにわとりが先かのような話である。
「ボクには判断ができませんので、義父(ちち)に確認してみます」
 エセルバードには決定権はない。それでもこうやって彼女はエセルバードを頼ってくれる。それだけで心にぽっと火がついた。

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