氷龍の贄姫
 一つ心配事が解決すると、また新たにやってくるのはなぜだろうか。
 次第に雪も深くなり、本来であれば氷龍が空を軽やかに飛翔する季節である。だが、空を飛ぶ氷龍の数が減っているように見えた。
 さまざまな有識人が王城に集められているのも、知っていた。
 新しい年も明け、これからますます雪が多く降るだろうとしている季節に、ラクシュリーナとサライアスは本城から呼び出された。残念ながら、エセルバードは留守番である。
 サライアスからは「目を通しておくように」と分厚い本を一冊手渡された。
 次の春から、エセルバードは本城の側にある学校へと通う予定である。それもあって、最近は身体を鍛えるよりも、知識をつけることを優先とされていた。読み書きはもちろん、計算も。そして、この国の歴史は近隣国との政治関係まで。これから学校で学ぶであろうことを、先に知識として蓄えておけとのことらしい。
 こうやって勉強するときも、離塔ではラクシュリーナの控えの間を使わせてもらっている。護衛する対象は外に出てしまったため、ここに控えている者は誰もいない。
 エセルバード、一人きり。
 外はしんしんと雪が降り続いている。厚みのある灰鼠の雲の隙間から、ときどき太陽のうっすらとした形が見えるが、その雲を吹き飛ばすほどの力はないようだ。外は少しだけ明るくなったり、また暗くなったりと、不安定な天気が続いている。
 本城と離塔をつなぐ通路は、しっかりと雪かきをしているが、これだけ雪が降ればすぐに積もってしまう。
 彼女のことだから、また通路で転ばれては大変だ。なによりも、今日はエセルバードが一緒にいない。転んでも助けてあげられない。
 右手にあのときの感触が蘇ってきた。ラクシュリーナが凍りかけの通路で足を滑らせ、転びそうになったとき、とっさに助けたのはエセルバードである。
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