氷龍の贄姫
サライアスからは「よくやった」と褒められたし、エセルバード自身もそう思った。守るべき主人に怪我もなく、心から安堵した。それよりも、彼女を支えるくらいの力がついていたことも、嬉しく思った。
あのとき触れた彼女のぬくもりが、まざまざと右手に思い出される。
その想いを断ち切るかのように、もう一度、本に視線を落としかけたとき、誰かが階段をあがってくる気配がした。隣の部屋の扉が開き、室内へと入ってくる。
誰が誰であるか、その物音から容易に想像がつく。
なぜか心臓がうるさく鳴っていた。
「あ、義父上」
サライアスがこちらにやってきたのを見つけ、勢いよく立ち上がる。
「どうかされたのですか?」
いつも余裕のある笑みを浮かべているサライアスの様子がおかしい。口を開きかけて、また閉じた。あげく、右手で口元を隠す。
何か言いにくい話でもあるのだろうか。
「義父上、お茶でも飲まれますか? 外は冷えましたよね。これでもボク、姫様にお茶を淹れるのが上手になったと褒められたのです」
「そうか、では頼もうか。できれば、香辛料の強めのものをお願いしたい」
子どもらしく振る舞うときと、大人っぽく振る舞うときと。状況に応じて使い分ける術を、エセルバードは身に付けていた。
いつも食事で使用している小さなテーブルの上に、一人分のお茶を置いた。サライアスが希望したお茶は、エセルバードが飲むには刺激の強いものだ。
「あぁ、美味いな」
染み入るような声でつぶやく姿も、いつものサライアスと何かが異なる。
あのとき触れた彼女のぬくもりが、まざまざと右手に思い出される。
その想いを断ち切るかのように、もう一度、本に視線を落としかけたとき、誰かが階段をあがってくる気配がした。隣の部屋の扉が開き、室内へと入ってくる。
誰が誰であるか、その物音から容易に想像がつく。
なぜか心臓がうるさく鳴っていた。
「あ、義父上」
サライアスがこちらにやってきたのを見つけ、勢いよく立ち上がる。
「どうかされたのですか?」
いつも余裕のある笑みを浮かべているサライアスの様子がおかしい。口を開きかけて、また閉じた。あげく、右手で口元を隠す。
何か言いにくい話でもあるのだろうか。
「義父上、お茶でも飲まれますか? 外は冷えましたよね。これでもボク、姫様にお茶を淹れるのが上手になったと褒められたのです」
「そうか、では頼もうか。できれば、香辛料の強めのものをお願いしたい」
子どもらしく振る舞うときと、大人っぽく振る舞うときと。状況に応じて使い分ける術を、エセルバードは身に付けていた。
いつも食事で使用している小さなテーブルの上に、一人分のお茶を置いた。サライアスが希望したお茶は、エセルバードが飲むには刺激の強いものだ。
「あぁ、美味いな」
染み入るような声でつぶやく姿も、いつものサライアスと何かが異なる。