氷龍の贄姫
 彼に問いたい気持ちを、エセルバードはぐっと耐えた。落ち着けば、サライアスのほうから伝えてくれるだろう。それがエセルバードにとっても必要なことであれば、なおのこと。
 深く息を吐きながらも、サライアスはお茶を味わっていた。
 その様子をじっと見つめ、言葉が出てくるの待つ。
 コトリとカップがテーブルの上に戻った。中身は空っぽ。
「氷龍の龍魔石が減っている話は知っているだろう?」
「はい」
「その原因がわかったんだ」
 何事も原因がわかったよりもわからないほうがツラい。
「それは、よかったですね。原因がわかれば、あとは解決方法を探すだけですから」
「そうだな。だが、その解決方法が常によいものとはかぎらない」
 サライアスはエセルバードを真っ直ぐに見つめる。彼は、エセルバードが子どもだからといって、ごまかすような言い方はしない。
「氷河時代、知っているか?」
「はい、義父上から借りた本で読みました」
 その答えに、サライアスはゆっくりと頷く。
 氷河時代とは、大陸の気温が低下し、普段は雪の降らないフレイムシアン国も、年中雪に覆われた時代を指す。それが始まったのは、今から五百年前であったと、本には書いてあった。そこから百年ほどの氷河時代が明けたあと、徐々に気候が落ち着いて、今に至る。
「その氷河時代がやってくる前触れらしい。氷龍の力が尽きようとしている」
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