氷龍の贄姫
「え?」
「氷河時代の始まりは、氷龍の力が尽きたのが原因らしい。その前触れとして、氷龍が龍魔石を落とさなくなる。つまり、龍魔石の減少だ」
「え? これから氷河時代がやってくると?」
 そんな話、にわか信じられない。氷河時代は今から五百年以上も前の話である。
「ですが、氷河時代は五百年も前の話。それが、なぜ、今……?」
「そう。氷河時代だけで見れば、五百年に一度起こっただけの話だ。だが、龍魔石の減少はその前にも、起こっていたようだ」
「五百年よりも前にも氷河時代があったのですか? そのようなこと、歴史書には書いてありませんでしたよ」
「正確には氷河時代は五百年前の一度きり。それ以前は、このアイスエーグル国が閉ざされた」
「閉ざされた?」
 その言葉の意味が理解できない。
「他国とのやりとりを取りやめたのだ。他の国では鎖国とも言うようだが、我が国の場合、それとも少し異なる」
 鎖国とは国を鎖で囲み、他の国をよせつけないといった印象からくる言葉である。
「では、今回も鎖国のようなことをすれば氷河時代を回避できると?」
 そうだ、と頷いたサライアスはカップに手を伸ばしたが、中身が空っぽであることに気づくと、悔しそうに手を引っ込めた。
「お茶、淹れますか?」
「いや、いい」
 その言葉の節々からは怒りを感じる。
 他国とのやりとりを断絶し、アイスエーグル国だけで生きていく。そうなると龍魔石のやりとりもできなくなるだろう。それが各国に及ぼす影響は、想像がつかない。
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