氷龍の贄姫
「いや。王城を中心に閉鎖し、残った者は他の場所で生活を続ける。ただ、龍魔石はどうなるかがわからないから、今までと同じような生活が望めるかどうかはわからない。それでも、氷河時代がやってくるよりはマシだろうという考えだ」
 犠牲を最小限にする。その言い方がしっくりとくるだろう。
「そうですか。まだ、信じられない気持ちもありますが……」
「そうだ。俺だって信じられない……」
 サライアスが自身を「俺」と呼ぶのはめったにない。それだけ彼自身の感情も揺れ動いているという証拠である。
「だが、もっと信じられないと思っているのは……姫様だろうな……」
 今の話が本当であれば、犠牲になるのはラクシュリーナを含む王族である。
「陛下は、その役目をラクシュリーナ様に与えた……」
「どの、役目ですか?」
 そう問うた声は、かすれていた。
「氷龍とともに、眠りにつく役目だ。何も王族全員である必要はない。誰か一人であればいいと、そういうことのようだ」
 瞬時に息を呑む。
「どうして、姫様なんですか……?」
 それがエセルバードの正直な気持ちだった。
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