氷龍の贄姫
「それにね。氷龍とともに眠りにつくといっても、死ぬわけではないらしいのよ」
「え?」
 驚いたエセルバードはおもわず顔をあげた。
「もう、エセルったら」
 ラクシュリーナは手巾を取り出し、彼の涙を拭う。
「氷龍と一緒に眠るだけ。氷龍の力が回復し、また飛翔できるようになれば、ともに眠りについた者も目覚めると。そう文献にはあるみたいだから」
 すぅっと肩の力が抜けた。サライアスも眠りにつくと表現していたことを思い出す。それをエセルバードは永遠の眠りであると勝手に解釈していたのだ。
「そうなのですか?」
「だから、何も心配しないで。わたくしは必ず目覚めるから……」
「わかりました。では、姫様が役目を終えて目を覚ますのを待っております。それで、どのくらい眠るのですか?」
「それは……わからないけれども……」
 そこで彼女は口ごもる。となれば、本当にわからないのだろう。
 数年かもしれないし、数十年かもしれない。言葉はなくとも、言いたいことはなんとなく伝わってくる。いや、もしかしたら言いたくないのかもしれない。
「姫様。ではボクは約束します。氷龍がふたたび飛翔するとき、ボクは姫様を守る騎士になっています」
「まぁ、心強いわね。それならわたくしも安心して目覚めることができるわ。でも、おばあちゃんになっていても、がっかりしないでね」
 ラクシュリーナは花が咲き誇るような笑顔を見せた。
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