氷龍の贄姫
「わたくしも、これでお父様の役に立てるのかしら?」
 それから彼女はぽつぽつと語り出す。
 昔に氷河時代があったこと。氷河時代を回避した時期もあったこと。氷龍の力と関係していること。そして、王族の力も必要であること。
 それは歴史学者が古代語を解読した結果であった。今の大陸歴は、前の氷河時代が明けてからのものである。
 氷龍はおよそ五百年の周期で長い眠りにつく。前に眠りについたのが五百年前、そして目覚めたのが三八十年前。この眠りの時期が氷河時代と重なる。
 氷龍がアイスエーグル国の王族とともに眠れば、彼らは短い時間で体力を回復し、眠っている間に氷龍が放つ冷気も、狭い範囲にとどまるらしい。
 これは生物学者が寝る間を惜しんで、氷龍の生態を調べた結果によるものだ。
 となれば、氷河時代を選ぶよりは、王族の誰かが氷龍と眠りについたほうが、大陸への影響は少ない。そう考えるのが妥当である。
 とはいえ、その時間と範囲がどれだけであるかは、生物学者でもわからないとのこと。過去の事例が千年も前のことで、そういった文献が見つからなかったのだ。
 以上のことから、氷龍の相手として選ばれたのが、第二王女のラクシュリーナ。
 ようは、大陸を救うための生け贄のような存在である。それでもラクシュリーナ本人は、それを受け入れた。
 ラクシュリーナとサライアスが本城に呼び出されたのは、この話のためだった。
 くすぶる想いを、エセルバードは吐き出せずにいた。きつく唇を噛みしめる。
 彼女は、エセルバードに生きてほしいと言った。それはエセルバードも同じである。
 彼女に生きてもらいたい。
 彼女にふさわしい男になりたい。
 その気持ちで生きていたというのに――。

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