氷龍の贄姫
エピローグ
 キュゥというかわいらしい鳴き声は、氷龍の鳴き声だ。
 彼らは見た目と違って、意外とかわいい声で鳴く。
 キュゥキュゥキュゥ――。
 だが、これだけ氷龍が鳴いているのは珍しい。何があったのだろう?
 頭の中は、氷龍に何が起こったのかという好奇心でいっぱいだった。それを確かめたくて、ぱっと目を開ける。
「お目覚めになられましたか? ラクシュリーナ様……」
 目の前には天鷲絨(びろうど)の瞳。春を思わせる黄檗(きはだ)色の髪。このような男の子を知っているが、このような成人した男性は知らない。
「……あ、え……?」
「姫様が氷龍とともに眠りについてから、二十年が経ちました」
「は……?」
 まだ頭がはっきりとしない。それでも、氷龍を守るために、龍の間に置かれた立派な寝台で眠りについたのは覚えている。
 だけどラクシュリーナにとっては、夜に眠りにつくような、そんな感覚だった。
 目をぱちぱちと瞬かせてから、首を振って周囲を確認する。
 キュゥキュゥキュゥ――。
 氷龍たちが起き上がり、のそのそと動き回っている。何体かは回廊に出て今にも飛び立ちそうだ。
「え? 氷龍は元気になったのかしら?」
「そのようですね。そうやって、自分のことよりも氷龍を気にされるところは、昔から変わっておりませんね」
 そう言われても、ラクシュリーナが眠りについたのは、つい昨日のように感じる。だから二十年と言われてもピンとこない。
「あの……あなたは……?」
< 42 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop