氷龍の贄姫
 マルクにエセルバードの件を伝えると、問題ないとのことだった。マルクが養子として引き取ったわけでもなく、仕事を与え、衣食住が手に入るように手助けしただけ。エセルバードが騎士を目指すのであれば、それはそれでよいのでは、というのがマルクの考えでもある。
 マルクも人のよさから、本当に身寄りを亡くした子の世話を焼いていただけにすぎないのだ。
 ラクシュリーナは、少し離れた長椅子で、サライアスとマルクの話を聞いていた。
 彼らが談話室で話をしていると、ちょうどエセルバードが風呂を終えて姿を現した。身体もあたたまったのだろう。色の悪かった唇に血色も戻り、ほくほくと湯気が出ているようにも見える。
「あ、マ、マルクさん……」
「エセル。話はサライアス様から聞いた。お前が決めたのなら、それでいいんじゃないのか?」
「あ、ありがとうございます」
「ゼクスじいさんの頼みだったからな。まぁ、お前さんが俺んとこにいるよりも、サライアス様のところにいたほうが、じいさんも天国で安心できるだろうな」
「そんなことは……」
 その言葉にエセルバードがしどろもどろし始めると「冗談だ」と言って、マルクは立ち上がる。
「では、失礼します」
 余計な言葉は口をせずに、マルクは深く腰を折って部屋を出て行った。
「マルクも公認ね。これで、好きなだけここにいれるわね」
 ラクシュリーナの言葉に、サライアスは目を糸のようにする。
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