冷酷無慈悲な悪魔公女ですので暴君殿下に溺愛されても動じません
 イヴァンに連れて行かれた先は、王宮の敷地内にある庭園だった。

「これは一体なんですか?」

「猫だ」

「見ればわかります。私が聞きたいのはそういうことではなくて、なぜこんなにもたくさんの子猫が集められているのかということです」

 庭園の一角には腰の高さほどの柵で囲まれた場所があり、そこには十匹ほどの子猫が走り回ったり、木の切り株の上で昼寝をしていたりした。
 イヴァンに言われるがまま柵の中に入ると、子猫がシルビアの足に擦り寄った。

「お前は猫が好きなんじゃないのか」

「好きでも嫌いでもありません。私が猫好きかどうかがこの状況と何の関係があるんです?」

「そうか。女の好みの移り変わりは早いな」

 さっきから微妙に会話が噛み合わない。
 
 シルビアはため息をついて、ニャーニャーと高い鳴き声をあげる白い毛並みの子猫を抱き上げた。
 シルビアの細い指が、暖かくて柔らかい毛の中に埋もれていく。

(まるで綿毛みたいね。手を離したら飛んでいきそうだわ……)
 
 ざっとすべての猫を目視で確認したが、どれもペルシャ猫のようだった。立派な毛並みに整った顔立ち。高価なペルシャ猫の中でも、さらに希少な子猫たちに違いない。税金の無駄遣いだ。

 抱き上げた子猫の脇を持ち、高々と持ち上げる。
 子猫は嫌がるそぶりもなく、つぶらな瞳でシルビアをじっと見つめた。
 
 どうして嫌がらないんだろう、とシルビアは首を傾げる。
 自分だったら、こんな風に好き放題されていたら、牙を剥いて噛み付く。しかし、子猫はそれすらもできない、そんな考えも浮かばない、か弱い存在なのだ。

 シルビアがそっと子猫を下ろすと、近くにいた子猫が突然シルヴィアの手に噛みついた。

「痛っ……!」

 思わず子猫から手を離す。手から少量の血が滲む。

「大丈夫か!」

 シルビアの小さな悲鳴に、離れたところで猫と戯れていたイヴァンが駆け寄る。

「平気です」
 
 そう言いながら噛んだ子猫を見ると、全身の毛を逆立てながら、シルビアを睨みつけていた。その後ろには、先ほどまで抱き上げていた子猫がのんびりと毛繕いしている。

「血が出てるじゃないか!」

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