冷酷無慈悲な悪魔公女ですので暴君殿下に溺愛されても動じません

6 夫として

 ***
 シャーノン公爵が逮捕された日、シルビアとイヴァンはお互いの誤解を紐解くように語り合った。
 文字をほとんど読めないイヴァンが、突然学業に精を出した理由。シルビアに何も言わずアカデミーを卒業した理由。婚約者にシルビアを指名した理由。すべてが自分を守るためだと知り、シルビアはむず痒い思いでイヴァンの話を聞いた。
 
 そして、イヴァンはシルビアを魔の手から助け出すための計画を練った。シルビアに影響がないよう、全ては婚姻前に片付ける必要があった。
 
 イヴァンが公爵の前に出したミラノ公爵との手紙はすべて、あの日のために用意した偽物だった。
 事前にシルビアから公爵の筆跡がわかるものをもらい、封筒の外側には筆跡を真似して宛名を書いた。それを見て、公爵が勝手に勘違いしたというわけだ。

「公爵が怪しいとはわかっていたんだが、なかなか確固たる証拠が見つからなくてな」

 イヴァンはそう言って、紅茶を口にした。
 こうして見ると、本当に絵になる男だと、シルビアは思った。アカデミーの中庭で、だらしなく昼寝している男の姿はもうここにはない。

「それにしても、どうして殿下はご病気のことを教えてくださらなかったんですか。もし教えてくだされば、もっと他の方法で勉強を教えることができましたのに……私に隠さなければいけない理由でもあったんですか」

 すると、イヴァンはふんと鼻を鳴らして偉そうに言った。

「そんなの決まってるだろう。好きな女に同情などされたくはないからだ」

 堂々と好きな女と呼ばれ、自分の意思とは裏腹に心臓が跳ねる。それを誤魔化すかのように呟いた。

「……殿下はそうやって、王宮に来る女性たちを翻弄していたんですね」

「どういう意味だ?」

「わからないなら結構です」

「なんだ?なぜ不機嫌になるんだ」

「不機嫌になどなっていません」

 イヴァンと言い合いをしているうちに、アカデミーで過ごした日々のことが思い出された。

(なんだかあの日々が懐かしいわね……)

 そう思って、ふと気がついた。自分はあの時のイヴァンとの思い出を愛しく思っているのだと。
 最初は「厄介なことに巻き込まれた」と乗り気じゃなかったイヴァンの家庭教師役も、自分じゃ考えもしないような回答を持ってくるイヴァンに、なんだか心が軽くなった。他の生徒は皆シルビアを怖がり、冷徹な悪魔だと噂したが、イヴァンは無愛想なシルビアを揶揄って遊んだ。
 アカデミーで友達は一人もできなかったけれど、シルビアには教えがいのある生徒ができた。

 シルビアはそんなイヴァンとの愛おしい思い出を巡り、諦めたように息を吐き出した。

< 20 / 23 >

この作品をシェア

pagetop