お荷物令嬢と幸せな竜の子
「え? 」
遮った意味がどちらだったのかを聞くべきなのに、まるで餌に食いつくみたいに反応してしまった。
「考えてみたら、怪しい組み合わせですもんね、俺たち。謎すぎて目立つから、目をつけられるんじゃないですか。まあ、あんた一人で既に目立ってますけど」
「……そうかしら」
傍から見て、関係性が謎。
そりゃそうだ、別に隠しているわけじゃないけど、包み隠さず話すとしたって本人がよく分かっていないのだから。
「面倒くさいし、いいんじゃないですか、それで。姫さんもこれに懲りて、竜だなんだって誰彼構わず話さないでください」
「めんど……分かってるわよ。ウィルだって、姫さんなんて呼ばないでよね。設定上変だから」
迂闊に聞き込みしすぎ、人を信用しすぎ。
確かに懲りたけれど、「面倒くさい」と懲りたのはウィルの方だと思うのに。
「そうですかね? 俺の姫さん。合ってるじゃないですか」
「……演技だと何でも言えるのね。それこそ、無意味なのに」
恋人の設定なんかにしたら、人前ではそれらしくしていないといけない。
そっちの方が余程面倒くさいだろうに、変なウィル。
「言ったでしょ。生きる為なら、ある程度のことは。その場しのぎでも何でも、切り抜けられるのなら意味はある。それに……」
言いたいことは分かるし、短い滞在ならバレないというのもあるだろうけど。
何となく釈然としない私の耳元に、ウィルの唇が寄せられた。
「これまでの経験に比べたら、そう最悪の設定でもないからな。見たところ、ユリも俺が大嫌いってわけでもなさそうだし」
――この際、あんたも俺で楽しんだら。
「〜〜っ、何をよ……! 」
「さあ、何でもいいですよ。俺も別に、あんたが生理的に無理ってわけでもないですし。必要なら、それなりのことはして差し上げます。姫さんのご希望ならね」
好みじゃなくてどっちかというと対象外だけど、生きる為なら仕方ないから何でもできると。
それはもう、できるというより、生きる為なら何でもできるに限りなく近いではないか。
「だから、何を……! 」
「とりあえず、何でも言ってみてください。ほら、あんたは、何想像したんですか」
失礼すぎるのに笑ってしまいそうになるなんて、どうかしている。
でも、ウィルの笑顔を見るのは気分がよかった。
「粗方、話を合わせときましょう。あんた、咄嗟のアドリブなんてできなさそうだし。目下、世間知らずのお嬢様が、使用人と恋に落ちて逃避行ってとこですかね」
(恋の逃避行……か)
似ている……かもしれない。
でも、全然違う。
――当てもなく行く先に、ウィルがいてくれる保障はないのだから。