お荷物令嬢と幸せな竜の子










ウィルが主に情報を仕入れたのは、もちろん昼間、明るい通りでのこと。


「……だから、おうちでいいこにしててくださいね、って言ったじゃないですか」


ただ、強硬手段に出るのには、お天道様の下では気が咎めたらしい。


「べ、べつに怖がってなんかないもの」

「別に、怖いんですか? なんて、俺は一言も言ってませんけどねぇ」


さすがに、善良な人間に強引に問い質すことができなかったのか。
更なる情報収集先に彼が選んだのは、夜が更けてから――それでなくても薄暗い路地裏にあり、しかも地下へと続く階段を降りた先にあった。


「ウィルこそ、どうして私が行くのを嫌がるわけ? 疚しいことでもあるとか」

「やましいこと……ね。そりゃあ、ありますよ。可愛い恋人が働いてる時に、こんなとこに入り浸ってたわけですから。あ、少し離れててくださいよ。くれぐれも、知らない人に着いていかないように」


職場の酒屋が明るいと思えるほどそこは暗く、とても居心地がいいとは言えなかった。
カウンターもテーブル席もあり、酒やつまみ程度はあるみたいだけれど、集まった人たちの目的がそれだとは到底思えない。


「あ、ちょっと、ウィル……! 」


そんなことを言ったくせに、自分はあっさりスタスタと奥に行ってしまう。
背中を引き留めようにも、一度も振り向いてはくれなかった。


(……何なのよ、もう……)


いや、これだけなら、いつものウィルだ。
恐らく、私のことを気遣って一人で行くことにしたのだとは思う。
言っても聞かないのを分かってて、部屋に一人にして後から探し回られるよりは、一緒に行く方がまだマシだと判断したんだろう。
そんな簡単なことすら疑問を持たせるのは、明らかにさっきの出来事のせいだ。


『他の男に……』


まるでウィルになら、ふわふわしてもいいみたい。
結構な爆弾発言だ。
この解釈のまま思考を進ませるなら、「俺だけ見てろ」みたいな、勝手だけれど決定的な何かに行き着いてしまう。
それならどうして、こんなふうに男だらけのなか私を一人にするのか――……。


「ウィルさん。奥さんはいいの? 」

「まだ、奥さんじゃないよ」


(…………!! )


――分からないどころの話じゃない。


(〜〜ナンパ……!? 人にあんなこと言った直後に!?!? )


信じられない。
一体、どんな神経をしてるんだろう。
そりゃあ、切り抜ける為、少しでも楽に生き抜く為に多少の演技もお世辞も、甘い笑顔も、瞳を真剣な色にすることも必要かもしれない。
ウィルはそのどれも、ものすごく上手くなってしまったのかもしれないけれど。


「ドラゴンが好きなのは、彼女じゃなかったの? それ調べて、一儲けでもするつもり? 」

「鋭いね。まあ、そんなとこ」

「あはは。村のシンボルをお金儲けに使うって宣言されて、教えるわけないよ。ここにいられなくなっちゃう」

「シンボルねぇ……でも、あんた、余所者でしょ」


女性の笑い声はよく通るけれど、肝心のウィルの声はぼそぼそとして聞き取りづらい。


「分かるよ。同じニオイがするから。……ここ、そういうとこなんだろ」


分かるのは、チラリと意味ありげに見上げた彼女の長い睫毛と、悪い話をしてるとばかりに弧を描いたウィルの唇との距離の近さだけ。








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